六本木エリアのギャラリーを編集部スタッフの目線で紹介する「六本木ギャラリー探訪」。今回は、以前こちらでご紹介した「ZEN PHOTO GALLERY」「ペロタン東京」も入っている六本木のピラミデビルの2階にある「Yutaka Kikutake Gallery」を訪ねました。
お話を伺ったのは、オーナーの菊竹寛さん。菊竹さんは、日本だけではなくニューヨークにも拠点を置くタカ・イシイギャラリーで10年ご経験を積まれ、そのお仕事と重複させながらこちらのギャラリーをオープンされました。ギャラリストであるとともに、編集者、コラムニストという顔もお持ちです。
まずは2015年7月の、ギャラリーオープンの経緯から。「タカ・イシイギャラリーで仕事をしていたこともあり、日頃から多くのアーティストとの付き合いがありました。その中で、若い世代のアーティストたちとも付き合いがあり、彼らが作品を発表してキャリアを重ねていくにつれ、どんどん作品が良くなっていく過程を目の当たりにしたんです。彼らの伴走者になりたいと思い『じゃあ、いっちょやってみるか』と、ギャラリーをオープンしました(笑)。」
「 (六本木に開廊した理由ですが)ここは元々タカ・イシイギャラリーのスペースだったものを引き継がせてもらいました。このビルはすごく好きですね。美味しいレストランもいっぱいあって、スポーツジムや中庭もある。夜にドアを開けて仕事をしていると、1階のシュラスコ屋からサンバが流れてくる...そういう雑雑とした雰囲気のなか、いろんなものと一緒にギャラリーをやっているという感覚をとても気に入っています。」
そんなアーティスト思いで行動派の菊竹さんは、誰でも気軽に訪れることができる、そんなギャラリーを目指しているそうです。「ギャラリーに入ると、入り口のカウンターで物静かな受付の人が、カタカタとパソコンのキーボードを打っていて、『本当に見ていってもいいのかな?』と尻込みする方もいるかもしれません。でも、例えばベルリンのギャラリーなどは、アットホームな雰囲気な場所も多いんですね。呼び鈴を押して、鍵を開けてもらって入るようなところもあって、中に入ると"まぁ見て行ってよ!"という風な歓迎が伝わる。
ここはスペースの制限もあるので、ベルリンのギャラリーのようにはいかないですが、こちらとしては、「美味しいコーヒーあるよ」というような気持ちでやっているので、どうぞ気軽に入ってください。」
訪問時に開催されていたのは、こちらでの開催は今回で3回目となる、向山喜章さんの「Maruyulate / Marugalate」。ワックスを素材に使用した作品と、近年取り組まれているキャンパス作品が展示されていました。
「高野山で生まれ育った向山さんは、小さい頃から仏教美術や高野山の環境に慣れ親しんで育ち、その中で作品制作をスタートされた方なんです。こちらの「Maruyulate」(写真中央)は、西欧を象徴するビーズワックス(写真中央右)と日本を象徴する精製された蝋(同左)の2点で構成されます。時間をかけてワックスが乾燥する過程で風がワックスの表面を撫でた跡が残り、風紋となって表面に表れています。」
「キャンパス作品は、50回以上にわたって塗っては乾かし、塗っては乾かしを繰り返していて、絵の具を"塗る"というよりも"染み込ませる"という表現がふさわしいほどです。いろんな絵の具を混ぜているので、立つ場所や光の当たり方によって、作品表面の色合いが変わるんですね。月明かりや星明り、太陽の光といったものをいかにして作品の中で、ワックス作品でいうと"留める"、キャンバス作品でいうと"生成する"ことを追求されているアーティストです。
日本は、はっきりと四季が分かれているので、季節ごとに光の在り方もぐっと変わっていくし、色彩も変わっていきます。そういう感覚を根源に持ちながら、作品制作をしていらっしゃいます」光の量、見る角度によって確かに印象が全く変わる、静かに美しく、発光しているような作品たちでした。
作品について丁寧な解説をしてくださった菊竹さんですが、菊竹さんにとってアートとは一体どんな存在なのでしょうか。「愛、とか!(笑)色々な考え方がありますが、芸術を通して人の感覚や生活に何か"伝播するもの"があると考えることもできます。そういうスタンスが僕は好きで、そうだとするとアートは、人と世界をつなぐメディアになるわけです。作品が生み出され、受容されるダイナミックな流れがあるのですが、そこに大きな愛が込められていたらいいな、と僕は思います。」
最後に「デザイン&アートの街」としての六本木について聞いてみました。
「六本木アートナイトという試みは、すごく大きいと思いますね。このギャラリーも期間中は22:00まで開けたりするんですけど、アートナイトというイベントの元に多くの人々が集まって、その中からもっと深くアートを知ってみようと思う人が少しでも増えれば、とても素晴らしいと思います。美術館もギャラリーも多くありますし、そういう意味では六本木という街は、アートにとってすごく大きな、よい拠点だと思います。デザインということに関していえば、まだまだやれることはいっぱいあるような気もするので、これからが楽しみです。」
ギャラリスト・編集者・コラムニストの仕事を通して「文化力の底上げをしたい」という目標を掲げる菊竹さん。
「一つの専門的な分野をぐっと深めるというよりも、いろいろな部分を繋げていきながら、底上げしていくことができればいいな、と思います」。菊竹さんの人柄がそのまま形になったようなYutaka Kikutake Gallery。一歩足を踏み入れれば、その優しい歓迎が伝わってくるはずです。
information
「Yutaka Kikutake Gallery」
住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F
TEL:03-6447-0500
営業時間:12:00~18:00
休廊日:日曜、月曜、祝日
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):www.ykggallery.com/