トークは終盤に差し掛かり、いよいよ講義テーマ「人を熱狂させるって何ですか?」に対する答えへと迫っていきます。
「熱狂とは、共感や応援といった感情で人のつながりをつくっていくことだと思います。そのためにできるのは、まず共通の目的やビジョンをつくること。もちろん単なる金儲けのための目的では誰も共感しない。それよりも、漫画の世界のように、荒唐無稽で絶対無理だけど実現できたら楽しい、みたいなものがいいんです。人が血だらけになって挑戦している姿を見せることで、そこに人が集まってきます」
まさに言葉を裏付けるように「血だらけ」となって挑戦した自身の歌手デビューのエピソードを紹介していきます。箕輪さんの別人格として生まれた「箕輪★狂介」は、音源リリース後、地方のショッピングモールを回ることになったのだそう。
「もともと箕輪★狂介に対して箕輪編集室のメンバーですらピンと来てなくて、Twitterでもほとんど無風に近い反応。メジャーアーティストに曲をプロデュースしてもらっても、誰も食いつかない(笑)。そんな中、土浦とか鴻巣とか、地方のショッピングモールを回るスケジュールを入れられて、おじいちゃん、おばあちゃんばかりがいる人たちの前でラップを歌うという地獄みたいなことが散々繰り返されたわけです。それでも、その様子を発信し続けていたら『ショッピングモールで歌っている』という事実から徐々にみんなが応援してくれるようになって。緩やかですが、リピーターのような人も出てきたんです。今はもう辞めてしまったのですが、もう少し続けていったら下手でも頑張るというスタイルのアーティストとして成立するような手応えはありました」
どんなに荒唐無稽なことでも、自らの身を削りながら少しずつ熱狂の火種をつくっていく。そんな姿勢は、コミュニティづくりにおいても同じ。
「コミュニティをつくるとなった時は、誰にも見られてないところからスタートして頑張るからこそ、一人ずつ人が集まってくるんです。サービスでも孤独に頑張って、ふと後ろを振り返るとファンが生まれている。だから、急に『オンラインサロン・月額5,000円』というところからははじめてはダメなんです。共通の目的というか、みんなで目指すための旗印を立てることがまず大事になってきます」
【クリエイティブディレクションのルール#5】
誰にも見られていないところからはじめる
「コミュニティでもうひとつ大事なのは、余白のプロデュース。成功しているオンラインサロンって基本的にサロンメンバーが頑張ってるんです。中心にいる人は、旗印を立てたらそれ以外のことはできないし、やらない。全部自分でやろうとすると大体ダメになるんです。僕の場合は、編集の才能があってよかったなと思うくらい、それ以外は何もできてなくて。他のことはみんなが支えてくれています。例えば、オンラインサロンのイベントをドタキャンすることが結構あるのですが、その方がイベントが盛り上がったりして(笑)。みんながどうにかしようと結束するという」
コミュニティを立ち上げ、さらに熱狂の渦へと巻き込んでいくためには、中心人物があえて「やらない」ことも重要だと説きます。
「コルク代表の佐渡島庸平さんが、人を巻き込むにはまずコミュニティのメンバーに『いてもいいんだ』と感じてもらうことが重要だと言っていて。その時にできる、一番簡単な方法は役割を与えること。例えば、転校生がやってきて何も役割がないと『いてもいいのかな』と気まずくなりますが、先生から『金魚に餌をあげておいてね』と言われれば、餌やりしている間はなんとなくコミュニティに参加した気持ちになる。コミュニティをつくるうえでは、余白を明確にして、みんなに役割があると思わせるスタンスも欠かせないんです」
【クリエイティブディレクションのルール#6】
あえて「やらない」ことで、余白をプロデュースする
講義は結論に入ります。冒頭の可処分所得から可処分精神への時代の流れをふまえ、わたしたちは熱狂を生むためにどうあるべきか、そのヒントを教えてくれました。
「前時代に通用した他社よりもいいものをつくって金をかけて売るという方法が厳しくなった今、人々の思いを集める必要があります。思いを集めるためには、コミュニティが必要です。コミュニティが生まれると、共存関係が生まれ、ファンとともにやりたいことをフルスイングで表現できるようになる。そんな熱狂をつくり出すめためには、結局『丸裸になって物語を売る』ことに尽きるんじゃないかと思います。
物語とは何かというと、単純にピンチなんです。基本的に物語は、大ピンチを迎えて次はどうなるのかということの繰り返し。そこに野次馬が集まるし、共感する人、応援する人が集まって熱狂が生まれる。だから『次の本は、10万部売ります』と言っても、ピンチじゃない。キングコングの西野亮廣さんであれば、15億円かけて美術館をつくるし、ホリエモンであれば、ロケットを飛ばすという荒唐無稽なことをやるからこそ、人と金が集まってくる。ピンチこそ熱狂を生むわけです。そんなふうに丸裸で物語を売っていくということが、今は一番強いんじゃないかなと」
【クリエイティブディレクションのルール#7】
丸裸になって物語を売り、人を熱狂させる
講義の後半は、1時間たっぷり質疑応答の時間が設けられ、最後まで途切れることなくたくさんの質問が投げかけられました。
会場これからの出版社のあり方や、編集者のあり方を教えてください。
「新しい取り組みとして『価格自由』というサービスを使った例があります。バンク代表の光本勇介さんと『実験思考』をつくる時『無料で売っていいですか?』と打診されて。ただ、ギリギリになって無料は厳しいとわかって、結果的に印刷原価と人件費含めた価格の390円で販売しました。無料ではない代わりに、本の側面にQRコードをつけて『めちゃくちゃいいと思ったら、後払いでお金をさらに払ってください』ということにして。それが『価格自由』というサービスなんですが、結果的に1億円集まったんですよ。それってつまり、本の売り上げ以外の収益が入ってくるようになったということ。
これまで出版は、部数でしか勝負できなかったんです。でも、可処分精神の時代になってからは、『深さ』を取れるようになった。例えば、前田裕二さんのSHOWROOMであれば、300人しか視聴者がいなくても、その人たちが鬼のように熱狂して課金をしていたら、何百万も儲かるとか。一人の熱量をお金にできるということが全産業で起きていて、本も『価格自由』というサービスによって、そうなるんじゃないかなと。試算したら幻冬社が1年間で出す本にそれぞれ10円ずつチップを増やすだけで、10億円くらいの収益が見込めるというくらいで。少し深さを取れるようになっただけで、本の収益モデルが変わる。そういう意味でも『価格自由』には未来を感じていて。これを多くの本に導入していきたいし、他社の本にも入れていきたいということを考えています」
続いての質問は、時代の流れをどのように読み取り、時代を変えていくか。
会場お話の中でご自身の感覚から本づくりをされているとのことですが、現状の時代の流れに対してはどのように感じていますか。また、時代を変えたいと思っていますか。
「世の中で短いコンテンツがウケるから文字数を少なくしよう、というような発想はあまりやりません。常に『いや、僕はこう思うんだけど』と、自分が欲しているものは何かなという個人的なことから発想しています。なので、時代の流れを読むことは、ある意味思い込みでいい気がします。例えば、1ヶ月かけてじっくり読んで人生が変わるような本が欲しいと思ってつくれば、世の中もそうなると思うんですよね。実は、みんなそう思ってた、みたいな。
なので、今日の『可処分精神』の話も、後付けのような気がするんです。自分のやりたいことをやって生まれた出来事を、後から解説しているような感覚です。ビジネス書をつくっている時も同じで、書いていることは全部本当なのですが、後から言っているんです。例えば、ホリエモンの『多動力』は、本をつくるよりも先に、彼自身の行動があったわけで。逆に言えば、時代の流れからつくっていたら圧倒的に遅いんだと思う。そういうことを頭に入れながら、個人の思いからつくっていっています」
事前に募集した質問の中からもお伺いしていきます。六本木未来大学のテーマであるクリエイティブ・ディレクションに関して、箕輪さんはどのように考えているのでしょうか?
会場先ほど「旗印を立てる」という表現をしていたと思うのですが、その後はどの程度までディレクションに介入するのでしょうか?
「NewsPicksBookの立ち上げ時は、全部自分でやっていたんです。表紙のデザイナーにも細かめに指示していましたし、紙も自分で選んでました。でも今は、最初のコンセプトとイメージを話した後は丸投げしていて。やっぱり一人でやっていると限界があるので、突破するために自分がつくりたいものを、みんなでつくれる場づくりに心を割いています。最初は抵抗があったのですが、徐々に箕輪編集室のコミュニティ内に共通認識のようなものが生まれはじめて、クオリティは上がってきていますね」
会場コンセプトやイメージの言語化は、どうしたらできるようになりますか。
「言語化に関しては、本当に瞬間なんです。『締め切り過ぎるよ』と言われてから初めて考え出すタイプなので。アイデアを出す過程では、世の中のものを散々インプットした後に、段取り通りではなく、ポンと出てくるものを大事にしています。僕は昨日と同じ今日を送らない、毎日が修学旅行みたいな日々を送っていて、引き出しだけは増えていくんですよ。なので、締め切りが迫ってくると自ずと出てくる。なので、とにかく世の中の見たことのないものに触れまくって、引き出しをつくっておくとアイデアが出るんじゃないかなと」
これまで数々のヒット作を生み出してきた箕輪さん。今回の講義では、今を生きる一人の人間として率直な実感から行動し、その結果「熱狂」を生みだしているのだということがよくわかりました。パンチの効いた言葉で語られる時代の本質を捉えたエピソードから刺激を受け、自分も何かやってみようと奮い立つ、そんな講義となりました。