六本木をはじめ都内各所で開催された、未来を創造するテクノロジーカルチャーの祭典「Media Ambition Tokyo 2018」略称「MAT」に行ってきました。本展は今年で6回目を迎えた、最先端のテクノロジーカルチャーを実験的なアプローチで都市に実装するリアルショーケースです。
MATは、国内外の様々な分野のイノベーターや企業、イベントが参画することで、多様なプログラムが都市のあちこちに増殖し、拡大し、繋がり、これらを包括する活動体として成長を続けています。今回は、昨日(2月25日)に開催を終えたばかりの六本木ヒルズの会場に展示された作品を中心に、最先端技術満載のイベントの一部を紹介します。
寒風と雪が山に吹きすさぶこちらの作品は、ジョアニー・ルメルシエさんの「山、11万4千個の多角形」。躍動感溢れる大きな絵画のようにも見えますが、実はアルゴリズムによって変形させた複数の網目模様を、壁に投影したもの。日が昇り、そして沈み、山が徐々に雪に覆われていく風景の移り変わりが流されています。
近づいてみると、その網目模様をはっきりと見ることができました。投影された光の層は、平面な壁にまるで奥行きがあるかのような錯覚を起こさせ、私たちが感じている空間の知覚を狂わせます。ルメルシエさんは、このほかにも光のプロジェクションを用いて私たちの視覚認識に影響を与える作品を手掛け続けています。
こちらの作品はクリエイティブの領域にAIの能力を導入し、表現の可能性を追求し続けるQosmoの「Imaginary Soundscape」。大量の風景画像と音の関係を学習したAIが、あらかじめ用意した無数の環境音から、体験者が指定した風景にぴったりの音を検索して流します。会場にはタブレットが設置され、来場者がGoogleストリートビューから希望の場所を選ぶことができるようになっていました。
試しにメキシコの街角を選択すると、その場所の画像とともに、中南米風の独特のリズム音楽と街を行き交う人々のざわめきが聞こえてきました。行ったことがない場所の音に耳を傾けるのも、想像の世界を旅するようで楽しいですが、行ったことがある場所を選び、目を閉じて思い出に浸るのもまた一興でした。
鎮座した大仏の後ろで、渋い輝きを放っているのは後光、ではなくCDの反射光。「CD Prayer」を作った勝本雄一朗さんは、CDではなくインターネットを通じて音楽を聴くようになりつつある今日について考え、「彼岸へと去りゆくメディアにも慈悲を願うのが人間だ」と、CDのための造仏を行いました。「CD Prayer」は、音楽をプレイ(Play/Pray)するコンパクトな大仏です。
全部で5体ある大仏の隣にはディスクジャケットが置かれ、作品にどんなCDが使われているのかを知ることができます。こちらはSMAPのアルバム「SMAP 015/Drink!Smap!」。同アルバムに収録されている「世界に一つだけの花」をはじめとした、まだ聞いたことがない曲との出会いを求めて、私もこのCDをお小遣いで買い、ドキドキしながら再生ボタンを押したことを思い出しました。
「森の学校」 やクリエイターインタビュー などにもご参加いただいている落合陽一さんが手掛けたのは、「Morpho Scenery」です。「(いつも目にしている)映像的だった風景が物質的になるという関係性を、どう捉えるのかについて、常に考えています」と語る落合さんは、窓の中央に光の屈折や反射などを起こす特殊なレンズを設置し、いつもと違う風景を映し出しました。このレンズを通すと、高層ビルが立ち並ぶ東京の風景が逆さに移り、ネオンや日の光が、目で見ているよりもさらに複雑な色に変化します。
うっとりとしてしまうような香りと一緒に、オルガンの軽やかな音楽を奏でるのは、21世紀型総合アートカンパニーTASKO inc.の「Perfumery Organ」。イギリスの化学者であり調香師のセプティマス・ピエスが著作「The Art of Perfumery(原題)」で提唱した香りの記述方法"香階"(音階に香りを対応させたもの) に着目し、世界初の香楽器として2015年に制作された本作品は、鍵盤を叩くと音とともに香階に基づいた香りが広がります。
このオルガンの奥にあるテーブルには、今回使用された香りが勢揃いしています。そして香水が入った瓶の前には、それぞれがどんな植物から作られた香りなのかを示す植物のレプリカ、サンプルの香水と説明文が並び、実際に手に取って匂いを嗅ぐことができました。オルガンを自分で弾いても香りと音は出ますが、本展では毎時15分と45分から自動演奏が行われるので、空間いっぱいの香りと音を楽しむために多くの人がこの時間に周りに集まり、五感を研ぎ澄まして作品を堪能していました。
3月14日(水)公開予定の「六本木、旅する美術教室」の第2回イベントレポートでは、ブログでは紹介しきれなかった作品についても触れています。メディアアートの見方も学べる内容になっていますので、あわせて見てみてくださいね。「最先端テクノロジー」という言葉だけ聞くと、その技術がどのように我々の役に立つのかなど、利便性ばかりに目を向けてしまいがちですが、MATではジャンルやカテゴリーの枠を超えた、最先端テクノロジーによる"アート"が並んでいます。MATをはじめ、昨今注目されているメディアアートで、一体どんな未来を体験することができるのか、今からワクワクが止まりませんね。
編集部 髙橋
information
Media Ambition Tokyo 2018
会場:六本木ヒルズ、アンスティチュ・フランセ東京、デジタルハリウッド大学、Apple Store 銀座、ART & SCIENCE GALLERY LAB AXIOM、銀座 蔦屋書店、TSUTAYA TOKYO ROPPONGI、代官山 T-SITE、チームラボ、日本科学未来館、Good Design Marunouchiほか都内各所
会期:2018年2月9日(金)~2月25日(日)※終了しました
開館時間:会場によって異なる
休館日:会場によって異なる
観覧料:会場によって異なる
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://mediaambitiontokyo.jp/