78 青木保(国立新美術館長)×落合陽一(メディアアーティスト)前編

青木保(国立新美術館長)×落合陽一(メディアアーティスト)

2007年1月には国立新美術館、同年3月にはサントリー美術館や21_21DESIGN SIGHTがオープン、森美術館を含めた六本木アート・トライアングルも10周年を迎えます。記念すべき対談のゲストは、国立新美術館長の青木保さんと、六本木で生まれ育ったメディアアーティストの落合陽一さん。この街に造詣の深い2人が、六本木の過去と未来、アートの役割について語ります。

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update_2017.3.1 / photo_tsukao / text_kentaro inoue

どの文化にも属さず違和感しかない街。

落合陽一(以下、落合)東京ミッドタウンがオープンした10年前っていうと僕は19歳、懐かしいな。もう29年、六本木に住んでいますから。街の雰囲気ががらっと変わったのが2003年、六本木ヒルズがオープンしたあたり。そこから世間の認知度がものすごく上がって、とにかくお金持ちが住んでいるみたいな印象に変わってしまって。

青木保(以下、青木)ヒルズ族ですね。

落合僕は麻布台に住んでいるんですけど、そういう昔ながらの街の印象と、土地の印象が乖離してしまった。でも、防衛庁の跡地が東京ミッドタウンになって、街の雰囲気がまた変わって、その乖離がだいぶ減ってきた印象はあります。

青木防衛庁のあたりは、夜は真っ暗だったしね。

落合檜町公園は森林でした。沼みたいな池があって、よく釣りをしていたんです。

青木僕は、アマンドができた頃から来ていますから、落合さんとは半世紀くらい違うみたいだけれど(笑)。当時、明治屋のあたりにルコントという洋菓子屋さんがあって、僕はそちら派。よくそこに行ってお茶を飲んで、洋菓子を食べて。あと、六本木はジャズのライブハウスが多かったので、70〜80年代を通して、よく来ていました。

落合今も明治屋の裏あたりとドン・キホーテの裏のあたりって、すごく雰囲気が似ているんです。今でも未開拓というか、あれがたぶん僕の中にある六本木のナチュラルな風景。

 世界で一番好きな街を聞かれたら、やっぱり六本木って答えると思うんです。西洋感もないし、東洋感もない。どの文化にも属していなくて違和感しかない。相当変わってますよ、ここ。

いい街の条件は、歩いて回れるかどうか。

サントリー美術館
1961年に開館し、2007年に現在の東京ミッドタウン内に移転。国宝、重要文化財を含む約3,000件を所蔵し、日本美術を中心とした企画展を開催。3月12日(日)まで「コレクターの眼 ヨーロッパ陶磁と世界のガラス」を開催中。

青木文化的にも、サントリー美術館や21_21 DESIGN SIGHTができて、よりイメージが変わりましたよね。この街をずっと見ていて感じるけれど、やっぱり今が一番いいんじゃないかなあ。

 ただ一点、道路はいただけない。六本木交差点から飯倉方面に行くのも、国立新美術館に来るにも、歩道が狭くて人がいっぱいいて、ぶつかってしまう。私は昔から、いい街の条件は「歩いて回れるかどうか」だと思っていて。

落合ヒルズ側からミッドタウン側に渡るのも、本当に面倒くさいし。たとえば渋谷には、そういう分断がなくて、表参道から渋谷まできれいに店がつながっています。でも、六本木はところどころ空白地帯があるんですよね。

青木六本木のいいところは、盛り場を含めて、あまり1ヵ所に固まっていないところ。停滞していなくて、流動感があるというか。だからこそ、まず道を通りやすくしてもらわないと。カフェにしても、レストランにしても、もっと路上に飛び出したらいいし、気軽に座れる広場もあっていい。

 私は、ここへ来る前は青山学院大学で教えていたんだけれど、骨董通りから渋谷へ向かうところが壁しかなくて、夜真っ暗なんだよね。「壁なんか取っ払ってオープンカフェをやったらどうですか?」って、さかんに言ったんだけど誰も関心を持たない(笑)。六本木も同じで、やっぱり人が来やすい、過ごしやすい街角じゃないと。

六本木をアジアのアートマーケットの中心に。

落合個人的には、六本木はもっと国際的な文化発信感を押し出していけばいいんじゃないかなと感じています。この街って独特で、バブルのカルチャーと外国のカルチャーが両方とも残っている。それをもっと生かしていけば、他の街とは全然違うストーリーをつくれるはず。

青木数年前、雑誌に「六本木文化特区論」について書いたことがあります。税金をはじめいろいろな規制を緩和することで、文化施設やアーティストのスタジオ、またアニメや漫画のオフィスなどを誘致して、文化的な創造が生まれる街にする。残念ながら政策としては採用されませんでしたが、21世紀の文化創出拠点としては、東京の中では六本木以外にはないな、と感じて。

落合そう思いますね。だって、東京の中で一番ニューヨークっぽいですから。タワー系の建物には外資系の投資銀行やコンサル会社が集まっていて、お金はものすごく動いているし、いろんな人種がいるし。

 世界のアートマーケットの中心ってニューヨークじゃないですか。そのアジア版をつくるとしたら、後発ですが、今でもこの街はけっこう適していると思うんです。ただギャラリーの数が少なくて、アーティストが展示する場所もあまりないし、アトリエを持てるかといったら家賃が高すぎて、ちょっと難しい。

青木そこで、特別に安くできますよ、ある程度自由にできますよと言えたら......。日本人だけでなく外国人も呼び込めると思うんだけれど。