本日は、以前本ブログでご紹介した、プロダクトデザイナー柴田文江さんの書籍「あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ」の出版記念トークイベントに参加してきました。
会場となったのは、現在「森と湖の国 フィンランドデザイン展」を開催中のサントリー美術館のホール。
対談形式でのトークだったのですが、柴田さんのお相手は、今回の書籍のブックデザインを手がけたアートディレクターの葛西薫さん。お二人のトークのガイド役として、モデレーターのデザインジャーナリスト藤崎圭一郎さんもご登壇されていました。
出版ほやほやの本を実際に手にとりながら、お伺いするデザインの話は、とても興味深い内容でした。
まずは、今回、ブックデザインの中で主役となる柴田さんのプロダクトの写真をすべてモノクロにしようと葛西さんが提案したことについて・・・。
ーどうしてモノクロを提案したのですか?
ー葛西さん:著名なデザイナーの書籍がほとんど文章が主役の本だったので。視覚勝負な人が文章か、と思ったのですが、今回は柴田さんにテキストも書いてもらったのですが、その文章を読むときに、カラー写真があると、邪魔になるのでは、と考えたのです。柴田さんの考えていることが知りたかった。これはやっぱりモノクロだな、と思いました。
柴田さんも最初はとても意外で、葛西さんのこの提案に衝撃を受けたそうです。
そして、次に、写真の構図について。プロダクトデザイナーの書籍となると、そのデザイナーの方の作品集のようになりがちですが、今回、写真がとても特徴的で、全体図を取下ろしたものが少なく、すごく特徴的な撮影方法で展開しているのです。全体ではなく一部を撮影することによって、葛西さんが伝えようとしたことはいったいなんだったのでしょうか。
ー葛西さん:柴田さんが、よく、湿度をもったデザインと言っていたのと、私のデザインはかわいいと形容されがちだけれど、実はそうではない、というような、柴田さんの作品を通して伝えようとしていることがなるべく写真で表現できるといいと考えてディレクションをしていました。
柴田さんは、今回の写真を見て、製品をつくっている時のイメージを思い出したとおっしゃっていました。製品ができあがると、みんなに受け入れられるものとなってしまい、表層部分だけが見られがちな印象がありますが、製品をつくっている時は、製品の内側に入り込んで、形や外側を考えている。今回、葛西さんがディレクションをして撮りおろした写真は、つくっている時を思い出させるものだったそうです。モノクロだけれど、あたたかい、過去のイメージという古さもない写真たち。
つくったものには、湿度は宿らないのですが、しかしながら、ものを生み出すときに、地球上に生きている仲間としてモノを生み出したい、そこに魂をやどしたい、と思いながら、製品を生み出している柴田さんの考えをきくと、不思議と、その製品に愛着がわいてきます。その気分を具現化した写真を見るだけでも、価値があるんだな、と実感しました。
今回ご紹介したのは、トークの内容のほんの一部ですが、デザイナーさんがものを生み出す際の背景のお話をお伺いすると、そのものに対しての見方がぐっと深まる、と感じました。ただ、モノがあって、それが説明なしに素晴らしいと理解できる、自然のようなものは世の中に沢山あると思いますが、今回はお話を聞くことができ、その分、本に対する愛着がぐっと深まりました。デジタル時代にも、やっぱり、本がいいな、と実感した金曜日でした。
※トークイベント後の柴田さん。
編集部R
書籍情報:
柴田文江 作品集「あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ」
Forms within Forms -柴田文江のプロダクトデザイン-
ADP出版 価格:3500円+税
本書は、製品開発の発送から、紆余曲折を経て、着地、発売するまでのプロセスを、自らの言葉で綴った初の作品集です。無印良品「身体にフィットするソファ」、オムロン「けんおんくん」、Comb「iベビーレーベル」、象印マホービン「ZUTTOシリーズ」、庖丁工房タダフサ、カプセルホテル「9h(ナイン アワーズ)」、JR東日本ウォータービジネス「次世代自販機」ほか掲載。