椿昇さんと長嶋りかこさんのインタビューから生まれた「森の学校」のアイデアは、第一線で活躍するアーティストやデザイナーが先生を務める「青空教室」と、クリエイター推薦図書が揃う「森の学校の図書室」として実現しました。今回のレポートでは、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」で開催される「森の学校」プロジェクトの全容をご紹介します。
合計4日間にわたって行われる「青空教室」には、椿さんと長嶋さんの呼びかけで、各界で活躍する総勢15名のクリエイターが"先生"として集まりました。一人ひとりが1コマ90分を受け持ち、独創的な授業を展開。妄想、身体、開放、五感など、科目名からもわかるように、その内容は自由かつ多彩なもの。
初日に登場するのは、パーカッショニストとして活躍する山口ともさん。廃品からつくり出したオリジナル楽器を使ったパフォーマンスで知られ、UAとともに出演していたEテレ「ドレミノテレビ」のキャラクター"ともとも"としてもおなじみです。
森の学校では、参加者一人ひとりが廃品打楽器を使って、山口さんとともにセッションを繰り広げる"ガラクタ音楽会"を開催予定。その授業のタイトルは、「地球を叩く」。
「身の回りにあるものを叩くだけで音楽になる、ということを伝えたいんです。世の中には、叩くと意外な音がするものが転がっているんだぞって。音楽って、専門的な勉強をしなくても、遊び心をもって楽しめば誰にでもできること。構えずに、自分の心地いい音を探してもらいたいですね」
山口さんの事務所には、見たことのない楽器がズラリ! どんな廃品打楽器が授業に登場するのか、当日をお楽しみに。さらに、森の学校の"チャイム"も、山口さんが手がけてくれることになりました。
その他、この日はブックディレクターの幅允孝さん、世界初のデジタル地球儀を制作した京都造形芸術大学教授の竹村真一さん、「Soup Stock Tokyo」や「PASS THE BATON」を運営する遠山正道さんが登場します。
「たとえば、ヴァージン・アトランティック航空の、緊急時の注意事項を説明する『セーフティビデオ』。エンターテインメントとしても楽しめる仕上がりで、観ているとテンションが上がるんです。こんなふうに、固定概念を少し変えるだけで日常まで変化していくような、これからの生き方にまでつながるようなデザインの話をしたいですね」
そう語るのは、2日目の授業を担当する、服部滋樹さん。ご存じ、大阪に拠点を置くクリエイティブ集団「graf」の代表であり、京都造形芸術大学では教授も務めています。授業のタイトルは「Q&A&Q」。参加者からの質問に服部さんが答え、そこから出た疑問を参加者に投げかけ......と、質疑応答が連続して続いていくというもの。
「もはや、グローバルスタンダードなんてあり得ない。『Think global,act local』なんて言葉も流行ったけど、今はもうその先の考えが出ていて、『Think local,act global』なんて言われてる。つまり、ローカルで僕らが抱えている問題が解決できれば、それは世界のどこかの地域にも役立つはずなんですよ」
打ち合わせでも、授業さながらに、デザイン論やコミュニティ論を語ってくれた服部さん。「じゃあさ、数十メートルの黒板をつくって、授業で出たQ&A&Q&A&......を書いていこうよ」と、なんと「森の学校」で使用する黒板も製作してくれることに!
その他、椎名林檎やアヴリル・ラヴィーンの振り付けを担当するダンサー・井手茂太さん、アートディレクターの浅葉克己さん、ファッションブランド「writtenafterwards」のデザイナー・山縣良和さんが、この日の授業を担当します。
3日目に登場するのは、小学館児童出版文化賞やアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けている、絵本作家の荒井良二さん。授業の内容は「のようなものをつくる」というワークショップ。参加者が2組に分かれて、段ボールなど限られた素材を使って「のようなもの」をつくりあげていきます。
「誰も知らない神さま、のようなものをつくるっていうワークショップを以前やったことがあって。誰も知らないんだから、どんな形でもいいんです。これって、要は"物を見る角度"をちょっと増やすっていう話なんですよね。ファンタジーの、絵本の入り口にたどりつくための方法っていう言い方をしてたりもします」
この日は、他に京都造形芸術大学学長で地震学を専門とする尾池和夫さん、フォトグラファー・ホンマタカシさん、ミュージシャン・名児耶ゆりさんの授業が。
クリエイターインタビューやアイデア実現プロジェクトにも登場した大宮エリーさんは、最終日の授業を担当。打ち合わせで、「ピクニック、とかでもいいのかな? 一人一品持ってきて、みたいな(笑)」と話してくれたエリーさんは、以前、大学で授業をしていたこともあるそう。
「学生たちと三十三間堂に行ったんです。でも、感想を聞いてもなかなか話してくれなくて。でも、何が印象に残ったの、どうしてそう思ったのって、『なんで?』を繰り返していったら、だんだん、その学生オリジナルの感じ方や考え方が出てきたんですよね」
打ち合わせから数日後、送られてきた授業のタイトルは「なんでなんでピクニック」。たとえば「なんで空は青いのか?」に対する答えを、参加者みんなででっちあげて(!)答えていくというもの。さらに授業は、なんと参加者が持ち寄った具材でつくったサンドイッチを食べながら行うそう。
最終日に登場するのは、その他、臨済宗妙心寺派恵林寺で住職を務める古川周賢さん、東京大学博物館教授で獣医学者、比較解剖学者などの顔をもつ遠藤秀紀さん。そしてトリを飾るのはもちろん、"校長"である椿さん&長嶋さんの授業です。
「森の学校」では、さらにクリエイター50人の「推薦図書」が並ぶ「森の学校の図書室」を常設。「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」のテーマにちなんで、「デザインのスイッチ」を押してくれる本をセレクト、クリエイターの推薦文も読めるようになっています。たとえば、箭内道彦さんが選んだ『ぐりとぐら』の推薦文がこちら。
「ちびくろさんぼのホットケーキ以上に、おいしそうだったカステラ。ものをつくるときのワクワクする気持ちは、ぐりとぐらにおしえてもらったのが最初です。クリエイティブにはレシピがあること、力をあわせるおもしろさ、みんながよろこんでくれることのうれしさ。幼稚園で何度も何度も読んだ絵本。あ、あのカステラはもしかすると『愛と平和』のことだったのかな。互いの違いを認め合えない世の中に、突然いまそう思いました」
その他にも、葛西薫さん、小山薫堂さん、遠山正道さんなどなど、これまで六本木未来会議に登場したクリエイターが選んだ本がたくさん。五感を使ってアートとデザインを学ぶ「青空教室」と、のんびり芝生の上で読書を楽しむ「図書室」。あなたもぜひ、都心の自然の中で感性を刺激する「森の学校」に参加してみては。