85 蜷川実花(写真家 / 映画監督)前編

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ひと目見てそれとわかる独特の世界観で、写真のみならず映像やアート作品も数多く手がけている蜷川実花さん。メインプログラム・アーティストとして参加した『六本木アートナイト 2017』のキーワードのひとつが「東南アジア」でしたが、偶然にも最近はアジアでの活動が増えているといいます。2017年11月には上海で大規模な個展が控えている蜷川さんに、アジアにおける六本木の未来についてお聞きしました。

後編はこちら

update_2017.10.4 / photo_mariko tagashira / text_ikuko hyodo

作り手と受け手の境界線が曖昧な時代のアートのあり方。

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2017年9月30日~10月1日に、六本木の街を舞台に開催された一夜限りのアートの饗宴。今年は『未来ノマツリ』をテーマに、アジアを中心に世界中からアート、デザイン、音楽、映像、パフォーマンス作品が集結。メインプログラム・アーティストの蜷川さんは、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館にてインスタレーション作品を発表した。

AyaBambi(アヤバンビ)

Aya SatoとBambi Nakaのダンスユニット。ダンスワークショップの映像がSNSで話題となり、国内外のアーティストと共演。マドンナの娘がYouTubeでふたりを"発見"したことがきっかけで、バックダンサーに。2016年、リオパラリンピックの閉会式に映像出演をしている。

 最近、アート業界ではない方とお話していたら、「蜷川さんって写真も撮られるんですか?」とか「ベースは写真なんですね」と言われることが立て続けにあったんです。たしかに映画も撮っているし、写真以外の活動も増えてはきているけど、自分の肩書きが写真家であることは絶対だと思っていたので、人によってそうは見えていないっていうのが新鮮で。

 よくよく考えたら、『六本木アートナイト 2017』の作品も、写真を使ったのは飾りでつけた風車くらいで、写真がメインではない。作品のなかで写真を撮ることで、私の世界観を体感してもらえるようなインスタレーションなので、結果的にその指摘がよく現れた展示になったなあと思っています。

 今は、写真を撮ることも撮られることもカジュアルになっていて、発表するという行為が良くも悪くも軽やかじゃないですか。AyaBambi(アヤバンビ)ちゃんみたいにSNSをきっかけにあっという間にスターになって、マドンナのライブで踊っちゃうようなことも現実に起きていて、境界線がどんどん曖昧になっていると思います。可能性が無限に広がっていることに興味があって、最近はそういったことを写真や映像作品のテーマにしたいと思っているのだけど、六本木アートナイトの作品も言ってみればその一環。たった2日間だけ夢のような空間として現れる不思議な感じもいいなと思っています。

立体物を作る労力は時代が進化しても変わらない。

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台湾の『台北當代藝術館(MOCA Taipei)』にて、2016年3月19日~5月8日に開催された個展。これまで行ってきた個展の展示数は多くて約400点ほどだったのに対し、同展では700点を展示。写真以外にも過去の映像作品やグッズコーナーを設けたり、手がけた仕事の年表が展示されたりなど集大成といえる内容で話題を呼び、同館の動員記録を大きく更新した。

 六本木アートナイトで作品を制作してみて、実際に触れられるものを作ることの労力は、いつになっても変わらないことを痛感しました。これほどデジタル化が進んでいろんなことができるような時代に、限られた予算内で何をどう作るかっていうことに囚われまくったので。物体を作るのってお金も時間も労力もかかるし、どうにも削れないところがいまだにあるんですよね。しかも私は何度も言うけど写真家だから(笑)、そもそも立体物を作るノウハウがないんです。彫刻家や造形家と違ってゼロからのスタートで経験値がないぶん、どんな作品ができあがるのか自分自身が一番ハラハラしました。

 今年の六本木アートナイトは「東南アジア」がテーマのひとつになっていますが、個人的にも最近はアジアの活動を重視しているので、とても入りやすかったです。今のところ中華圏での活動がメインだけど、"日本の蜷川実花"が"アジアの蜷川実花"になったらおもしろいんじゃないかなと思ったのが、10年くらい前。最初に台湾に種を撒いて、去年ようやく台北で個展を開催したのですが、連日2、3時間の行列ができるくらいちょっとした社会現象になって、2カ月弱の会期中に13万人も来場してくれたんです。

 その展覧会はたとえばチームラボみたいに、見る側もインタラクティブに何かできるわけではなく、言ってみれば一方的に展示しているものだったけど、私の写真を写真に撮ってSNSで発信したり、私の写真と一緒に写真を撮ったりして、それぞれに楽しみ方を見つけてくれていたようでした。

間口の広さと奥の深さが比例するような作品を。

 映画を撮っていることも大きいと思うけど、私はほかのアーティストよりも、圧倒的に大衆と向き合っているというか、そういう市場にいることが多いと自覚しています。アートに興味のある人って、知的好奇心の旺盛な方が多いじゃないですか。だけど映画の場合、たとえば『ドラえもん』と『スパイダーマン』と私の映画が同列に存在するから、アートよりもいろんな人に投げかけることができるんです。そういう経験もあって不特定多数の人を相手にすることは得意だと思っているし、本来やりたいことにもすごく近い。

 いろんな人が気軽に手に取ることができて、おもしろいと思ってもらえるような門の広さがありつつ、実際に入ってみると意外と奥が深くて、思ってもいないような出口にいてくれたらいいなっていうのは常日頃思っています。

 そういう意味で六本木アートナイトは、作品を発表するステージとして申し分ない。場所もいいからアートにそこまで興味のない方もいらっしゃるだろうし、たまたま通りかかった人が「これおもしろいね」と反応して、それが何かのきっかけになれば嬉しいですね。誰かの初めてになれるっていうのが好きなんですよね。