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2018年01月09日

【展覧会レポート】シュウゴアーツ 藤本由紀夫 個展「STARS」

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藤本由紀夫 "STARS" Installation view, 2017, ShugoArts
copyright the artist, courtesy of ShugoArts
photo:Shigeo MUTO

現在、シュウゴアーツでは藤本由紀夫 個展「STARS」が開催中です。藤本さんは、電子音楽家から美術家に転向した経歴を持つ、関西を中心に国内外で活躍するアーティスト。1970年代を音楽スタジオで過ごした後、「音とモノ」を出発点として聴覚、視覚、嗅覚、触覚を刺激する独創的な作品の数々を制作してきました。

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藤本由紀夫 "STARS" Installation view, 2017, ShugoArts
copyright the artist, courtesy of ShugoArts
photo:同上

ギャラリーに足を踏み入れると、そこには真っ白な床と壁が広がり、壁に沿って並んだ木の箱から聞こえるオルゴールの音が、ぽつぽつと不定期に響いていました。この黒と緑の縦長の箱は、この展覧会のメインの作品でもある「STARS」です。

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この作品には3つの巻きねじが付いており、回すと小気味良い音と共に、中に入っているオルゴールそれぞれのねじが巻かれます。箱に入っている、18個のオルゴールから流れる音楽は3曲。上がバッハ作曲「G線上のアリア」、真ん中が『ティファニーで朝食を』の主題歌「ムーン・リバー」、下がミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のナンバー「私のお気に入り」。

しかし、ねじを回してもこれらの曲がそのままの形で流れることはありません。メロディを奏でるオルゴールの18本の櫛歯のうち、1本だけを残して全部曲げているそうです。藤本さんは、各曲について、本来ならオルゴール1台に18本ある櫛歯を、1台につき1本のみに減らしたものを18台分作り、それぞれを3つずつ、18個の木箱の中に入れました。

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誰もが知っている曲が、一音ごとにバラバラに分解され、それぞれのオルゴールの回るタイミングによってさらにランダムに流れていく...。そうなると、もはやメロディラインも何もない、個の音になってしまうはずですが、人間はランダムなはずの音の集団から、自分が知っている曲や音のパターンを知らず知らずのうちに聞いてしまう特性を持っているのだとか。藤本さんはその不思議さに目を付け、この作品を作りました。

「STARS」という作品タイトルは、藤本さんがその特性を星座になぞらえたことに由来します。昔の人が夜空に不均等に並ぶ星をつなげて星座を作ったように、来場者に自分なりの音のフォルムを見つけて楽しんでもらいたいとのこと。インスタレーションとしても美しく、音を楽しむだけでなく、空間そのものを味わうことのできる作品です。

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同じくオルゴールを使用したこちらの作品では、オルゴールのシリンダーの回転に合わせて、ポプリとサイコロが入った試験管も回ります。オルゴールが不定期に鳴らす音、ポプリが触れ合うかさかさという乾いた音、そしてサイコロが転がる音を、静かな空間の中で楽しむことができます。

音と空間を題材として取り上げることの多い藤本さんは、2つの関係について、「ものすごく天井が高かったり、広いところで音が響いていると、その音を手掛かりに空間のイメージが出てくる。だから、やはり音を聴いているというのは空間を聴いているのだと思うんです。そういうのは気配などと言われるけれど、ものすごく空間と密接な関係にあります」と説明しています。

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こちらはタイプライターによって制作された「ECHO」。意味ありげにそれぞれの場所に打たれた「E・C・H・O」の文字ですが、実はこの配置は偶然の産物。まず紙面上を12×12の格子状に区切って、12面体のサイコロを複数用意し、どのアルファベットをどの位置に何色で何回打つのかを、サイコロで決めています。

これは、ジョン・ケージの現代音楽でも知られるチャンス・オペレーション(偶然性の音楽)にヒントを得た手法。既製品を使って新しい作品を生み出す制作方法は、男性用小便器にサインを施した「泉」などで知られる美術家マルセル・デュシャンの思想を取り入れたものなのだとか。

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偶然によって主に構成されたこの作品において唯一、藤本さんの意思を反映できるのは、タイプライターを打つ力の強さ。近寄ってみると、力の加減によって変化したインクの濃淡を確認することができます。タイプライターを打つ藤本さんの頭の中で"エコー"している音楽を、聴覚を使わずに視覚だけで感じることができます。

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「PRINTED EYE」では、普段見ることができないECHO(響き)を、自分の目で見ることができるようになります。方法は簡単。レンズを覗きながら、手元の白いボタンを押すだけです。そしてレンズから離れて壁に目をやると、「ECHO」の文字が。白いボタンを押すと、レンズの中に文字が出てきて、それを少しの間凝視することによって、レンズから目を離した後でも陽性残像現象によって文字が空中に浮かんでいるように見えるのです。

普段私たちが接する文字は、紙に書かれたりモニター上に表示されているものであり、必ず物質とともにあります。しかし藤本さんは、物質から離れた、純粋な文字だけを「見る」ことができないかという興味から、眼球に直接文字を焼き付け、残像としての文字を見る作品を制作しました。

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藤本由紀夫 "STARS" Installation view, 2017, ShugoArts
copyright the artist, courtesy of ShugoArts
photo:同上

自分で回す、押すなどのインタラクティブさを作品に多く盛り込む藤本さんは、「ページをめくるのもご飯を食べるのも、普通の日常の動作がすべてインタラクティブ。日常生活を送るというのは、実は作曲して演奏している行為と一緒ではないかなと思うのです」と語ります。

感じることができないと思っていたものを、自分の中に見つけることができる場所。それが藤本由紀夫 個展「STARS」なのかもしれません。

編集部 髙橋





information
藤本由紀夫 個展「STARS」
会場:シュウゴアーツ
会期:2017年12月2日(土)~2018年2月3日(土)
開館時間:11:00~19:00
休廊日:日曜日、月曜日、祝日、年末年始(12月28日~1月8日)
入館料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://shugoarts.com/

藤本由紀夫 パフォーマンス&クロージングパーティー
日時:2月3日(土)15:00~
会場:シュウゴアーツ

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