六本木で働く・住む人に、街についてのインタビューをして、リレーで繋げる当企画。前回登場の山下さんが紹介してくれたのは、アート関係の会社でデザインアートコーディネーターをしている井上さん。独特の細やかな視点から生まれる六本木観をうかがいました。
Q 01
六本木といえば_________。(一言で表すと?)
A
なんだか「におう街」です。天気のいい日におしゃれなカフェでお茶をしていたとしても、隠しきれない夜の雰囲気や過去の気配を感じます。ビジネスで成功した人たちの活気やインターナショナルな空気感の一方で、人間の闇の部分や、愛や欲みたいなものの「におい」がありますよね。表と裏の共存、混在。
もともと六本木界隈って、戦争で焼け野原になったあと、政治や経済など大きな力によって動かされてきた街なので、今でもその名残が随所に残っています。たとえば米軍のヘリポート基地や各国の大使館、いわくつきのビルの跡地などなど......。いろんなところに過去の歴史の積み重ねが垣間見られて、魑魅魍魎でもいそうな雰囲気。そこが面白いなと思うんです。
Q 02
あなたがオススメする、六本木のベスト3は?(飲食店を含む、あらゆるお店でOK)
A
1位 魚初
私が働いているギャラリーの下の階にある、六本木では珍しい家庭的な雰囲気の飲み屋さん。もとは戦前からのお魚屋さんで、戦後に今の形になったようです。ポテトサラダとビールでダラダラ飲む、みたいなことができるお気に入りのお店。海外から来たアーティストを連れて行くこともあります。
2位 三河屋
「もう無理!」ってくらいのボリュームが特徴の揚げ物屋さんです。一度行くと「しばらくはもう揚げ物はいいかな」と思うんですけど、また行きたくなるんですよね。ごはんがなくなり次第終了なので、お早めに。西麻布の交差点から外苑西通りを上ったところにあって、ここもずいぶん昔からやっているみたいです。
3位 フリホーレス 六本木店
麻布警察の裏、ピラミデビルにあるブリトー屋さん。ここの魅力は合成着色料や保存料を使わない安全性だけでなく、両手サイズのずっしりとしたボリューム。肉類や豆類、野菜類から好みの具材をチョイスできるので、ベジタリアンや海外の人たちにも重宝されているよう。テイクアウトもできますよ。
Q 03
六本木にある、お気に入りの景色は?
A
私の勤めているギャラリーはビルの2階にあるのですが、その窓辺から眺める階下の景色がお気に入りです。ちょっと路地裏っぽい通りで、早朝7時や8時に上から見ているといろんな人が通ります。仕事終わりの人やワケありそうな熟年カップル、「いったいどんな仕事をしているんだろう」と思わせる粋な老紳士とか。
昼や夜はまた通行人の層が違って、道の先にある出雲大社の分祀や出版社を目指して歩いている人たち、なぜか泣いている女性や、たまに大声をあげている人なんかも。人間模様が垣間見られるし、妄想をかきたてられて面白いです。
Q 04
六本木のアフター5の過ごし方は?
A
仕事はだいたい19時すぎに終わるんですが、その後どこかに行くということはあんまりないですね。アフター5に六本木で何かするとしたら、そのまま仕事場で缶ビールを飲みながら外の景色を眺めているか、下の「魚初」に行くかくらいで(笑)。
Q 05
六本木ならではのリフレッシュ方法は?
A
窓辺で景色を眺めるのもそうですし、他にはランチに出たついでに美術館や本屋さんに立ち寄ったり、近所にある港区立六本木西公園でぼーっとしたりしています。
ここは昔は郵政省の官舎だったらしくて、入り口の門はその名残。こじんまりとした公園のわりには木がうっそうと茂っていて、子どもも遊んでいないのにジャングルジムがあって、猫がうろついていて......。なんだか異次元に迷い込んだような気分になれる空間です。
Q 06
身の回りのお気に入りのデザインは?
A
アーティストのスズキユウリと、ロンドンのデザインスタジオ「アバケ」が共同でつくった「B-side of Onomatopeic Music」。
これは彼らの作品集ともいえるし、アートブックともいえるし、本ともいえるし......。でも本といっても文字を読むためのものではなくて、いわば"体感型の作品"なんです。本という体裁をとりながらもテキストはほとんどなくて、写真やイラストなどのビジュアルで音が表現されている。
載っているQRコードを読み取ると音が流れる仕掛けなんかもあって、読者はこの本を眺めながら音の世界を想像し、考えるというアクションを体感します。装丁もすごく凝っていて素敵なんです。
Q 07
六本木をもっと良い街にするには?
A
すごく個人的な意見ですけど、深夜まで営業しているミニシアターができたらいいですね。映画が好きでよく目黒シネマに行くんですけど、ああいう館長独自のセレクトで上映されているような、パーソナルな作品が観られる映画館が六本木にもあったらうれしいです。
昔から、六本木って子どもが来る場所じゃないというイメージがあって、じゃあどんな人が似合うかというと、仕事も遊びも両立してアグレッシブに生きているような、粋でギラギラした大人なんじゃないかと。同じ東京の都心でも、渋谷や新宿で遊んでいる人たちと六本木にいる人はちょっと雰囲気が違う。そんなかっこいい大人が、もっともっと増えたらいいですね。
Q 08
前回出演した方(山下さん)とのつながりを教えてください。
A
もとは共通の友人から紹介されて知り合ったのですが、昨年、山下さんが働いているデザインハブで行われた「も()も()も()展」という企画展に出展したことから親しくなりました。
no.023
井上 裕紀さん
30代・デザインアートコーディネーター
六本木歴2年半