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PROJECT 六本木未来会議アイデア実現プロジェクト #22

"Colors in Air" by TOMO KOIZUMI

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update_2026.03.18 photo_yuka ikenoya / text_shoko ema

2024年の夏、No.158のインタビューの中で「ファッションとアートの境界を超えるインスタレーション空間をつくりたい」と語った小泉智貴さん。その言葉が約2年の時を経て、春を祝うイベント「MIDTOWN BLOSSOM 2026」で実現しました。世界的なファッションデザイナー、そして美術作家でもある小泉さんが手掛けたのは、幅約11メートルにもおよぶ大作。自身初となる本格的な屋外展示でもあります。東京ミッドタウンの芝生を鮮やかに彩る、穏やかで幸福な景色に込めた思いとは。制作の舞台裏とともに、小泉さんに話を聞きました。

ふたつの領域を行き来しながら、ひとつのメッセージを届ける。

「2024年の夏は、美術作家としての活動に試行錯誤しながら取り組んでいたタイミングでした」

ファッションとアートを行き来しながら、互いに影響を与え合う。それが理想だと小泉さんは語ります。2022年から美術作品の制作を始め、2023年12月には自身初の個展「Tomo Koizumi」を開催。翌年12月にはポーラ美術館の展覧会で、フリルをパッチワーク状に紡いだドレスとアートワークの作品群《Infinity》を発表しました。

Tomo Koizumi

Tomo Koizumi

小泉さんが初めて挑戦したアートの個展。2023年12月9日から2024年2月10日まで、東京・品川にある「寺田倉庫」内のギャラリーで開催された。会場に並んだのは、フリルを密集させてつくった大きなキャンバスに、下描きなしで素手によるペイントを施した作品。天井から吊るしたり壁に掛けたりと、絵画や彫刻という枠を超えた自由な表現を見せた。会期中には、モデルが作品を纏うパフォーマンスも行われた。
画像:Packychong Song

Infinity

Infinity

2024年12月14日から2025年5月18日まで、ポーラ美術館で開催された「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」展に向けて、小泉さんは新作《Infinity》を制作。50色ものオーガンジーを使った13点の作品群で構成され、中でも人の背丈をゆうに超える巨大なドレスと、頭部を飾るアートピースが鮮烈な印象を放った。
画像:©TOMO KOIZUMI

「分野を横断すると、頭の中がちょっと忙しい。けれど、結局伝えたいことはひとつなんです。一貫して"多様な存在が共存し作り出すハーモニー"を発信したい。今回のインスタレーション作品にも、『多様性を称える美学』というメッセージを込めました。人が着るドレスなのか、空間に置くアートなのか、表現方法が異なっても伝えたい核心は変わらず、常に同じ延長線上にあります」

Colors in Air 【響き合う色彩】 ~風にとけあう、やさしい風景~

"Colors in Air"
【響き合う色彩】 ~風にとけあう、やさしい風景~

「六本木未来会議」の「アイデア実現プロジェクト」により、美術作家・小泉智貴氏によるインスタレーション作品がミッドタウン・ガーデンに登場。TOMO KOIZUMIの「多様性を称える美学」を視覚化した多彩なフリルが風に揺れ、自然と人工が響きあう春の新たな風景を描き出す。展示期間は2026年3月13日から3月31日まで。

屋外での展示は、小泉さんにとって初めての経験だと話します。「外でファッションショーを行った経験は何度かあります。しかし今回の展示と比べると、それは一瞬のこと。2週間以上設置されるインスタレーションとなると話は別です。風雨への耐久性や安全基準をクリアしながら、表現としての美しさをどう守るか。衣装デザインとは異なる種類の制約と向き合いました」

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素材はドレスと同じ化学繊維のオーガンジーを用い、強風にも耐えられるよう頑丈に縫い合わせるなどの工夫を凝らして、巨大なインスタレーションをつくりあげました。使用した布の総量は、600メートル以上にのぼるそうです。

「ドレスには、"人が着用する"という制約がいつも伴いますが、今回はそれがない。その自由さは、新しい表現手段をひとつ手に入れたようにも思えました」

風とフリルを響き合わせ、六本木に新たな風景を描く。

インスタレーション制作で、小泉さんがこだわったディテールがあります。それは、フリルの長さです。

「ドレスは人の動きによってフリルの表情が変わりますが、《Colors in Air》ではそれを風が担ってくれています。そのぶん、より風を受けられるように、これまでにないほどフリルを長くしました。面白いのはここからで、その手法を次のドレスへとフィードバックしうるという点です。これまではドレスの手法をアートに応用する場合が多かったのですが、逆の流れになるかもしれない。また新しい"何か"が生まれる実感があります」

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ドレスからアートへ、そしてアートからドレスへ。双方向のシナジーがまたひとつ生まれたことに、小泉さん自身も新鮮な手応えを感じているようです。今回のインスタレーションでは、来場者に立ち止まってゆっくりと眺め、変化していく様子を見てほしいと語ります。

「コンセプトは、"人工と自然が響き合うこと"。人工とは、東京ミッドタウンのビルなど。自然とは、陽の光、木々など。作品が置かれているミッドタウン・ガーデンは、すでに人工物と自然が調和した空間だと思っていますが、その中で自分の作品がいい意味でのノイズとして存在感を発揮できることを考えました」

ミッドタウン・ガーデン

ミッドタウン・ガーデン

東京ミッドタウンに広がる、約10haにもおよぶ緑地空間。旧防衛庁跡地から継承されたサクラやクスノキなど約140本の高木が、広大な芝生とともに景観を生み出している。ランドスケープデザインには日本の四季の概念が取り入れられており、「芝生広場ゾーン」「森のエッジゾーン」「山のせせらぎゾーン」「高原の湧水ゾーン」の4エリアで構成されている。四季折々の自然を楽しめる、都心のオープンスペースとして多くの人に親しまれている。

"ノイズ"の感覚は、小泉さんの制作哲学と深く結びついています。
「人の手でつくるものなので、機械みたいな完璧さはありません。けれど、そのランダムさや有機的な要素こそが、ドレスをつくるときにも大切にしていることです。芸術は自然を模倣するところから始まるという意識が、常にあります。このインスタレーションも、自然と人工物の中間にあって、ふたつをつなぐ作品にしたいと思いながらつくりました」

その姿勢が、空間に馴染みながらも確かな存在感を放つアートを生み出しました。

「ファッションやアートのバックグラウンドがない方でも、お子さんでも、見て楽しんでいただけるものにしたかった。ただし、わかりやすさに寄りすぎたアートはつくりたくない。説明のいらない美しさで、いろんな人に本気で寄り添える作品を生み出したかったんです。芸術自体が言語を超えたメッセージを持っている。それを信じてつくっています。また、春という季節もあって、じんわりと優しく、幸せな気持ちになってもらえたら。日本では年度の始まりでもあるので、このインスタレーションを見た人が新たなスタートを切れるような、そんな後押しや希望に少しでもなれたらとも思っています」

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色彩で多様性を紡ぎ、未来へまなざしを向ける。

今回のカラーパレットには、「多様性を称える美学」というメッセージが込められています。小泉さんにとって、多様性とはどのような思いを持って向き合うテーマなのでしょうか。

「多様性については、まだまだ進化が必要だとみんな感じていると思うんですよね。多様性が大事だと言いながらも、心の中にマイクロアグレッション、つまり潜在的な偏見を抱えているケースもある。そういうものが自然となくなって、多様性という言葉自体が必要なくなるくらい、さまざまな人が同じ場所に当たり前のようにいられる世の中になってほしい。そのためには、しつこいと思われても、言葉や形として示し続ける姿勢がとても大事だと思っています」

理想の世界にはまだ遠い。それでも小泉さんは、作品を通じてメッセージを発信していきます。カラーパレットは、その意志の表れです。常に200色ほどの生地をストックし、色相や明度、彩度のバランスを意識しながら、あらゆる色に目を配って選び取っていく。特定のカラー群に偏らない姿勢は、多様性というテーマと通じるものがあります。

「《Colors in Air》は、芝生の緑と、桜が咲くこの時期の白やピンクに調和するような色を選びました。目を引くネオンカラーを入れつつ、あえてミスマッチな彩りもミックスすることで、自分らしい美しさを表現しています。一枚のドレスに用いるのは多くても5色ほどですが、今回は15から18色。多様なカラーが一面に共存するこの景色が、願う未来の姿と重なっていたらいいなと思っています」

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絵画との対話が、インスタレーションにも宿る。

制作のインプットとして小泉さんが続けているのは、絵画の色彩の研究です。偶発的な出会いも多く、海外出張の際にギャラリーで目にした作品が、ドレスのインスピレーションに繋がったこともあるそうです。

「いいなと思った色合いは、いつか自分の作品に生かしてみたい。そういう意味では、《Colors in Air》のカラーパレットも一期一会のものです。ここで披露するまでに積み重ねてきた刺激が、このインスタレーションに個性を与えてくれた。しかも、昨年の春と今年の春では、同じ季節でも気候も雰囲気も異なる。そのときにしかつくれない配色があるんです」

最近、小泉さん自身も油絵を描いているといいます。タイミングが来たら発表できればと話す小泉さんに、今回の作品に油絵からの影響はあるのか尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「特に好きなのは、絵の具の重なりや厚みによって立体感が宿った油絵。じわりと伝わってくる深みを持っている。その奥行きが、人を引きつけるとも思っていて。《Colors in Air》は空間を使ったインスタレーションですが、面で構成されていることは絵と同じ。表現は違っても、追い求めている本質は変わらない。絵を描いたり見たりする中で育まれてきたこの感覚が、あらゆる作品に自然と流れ込んでいる気がします」

東京をキャンバスに、クリエイションを広げる。

前回のインタビュー以降で特に印象深かった出来事を尋ねると、まず2024年末に出版した初の著書『TOMO KOIZUMI クリエイションブック Stitching Dreams 夢を縫う』を挙げてくれました。

「今まで考えてきたこと、蓄積してきたものを言葉にして、世に出せました。デザイナーやクリエイターを目指す人たちの力になれたらという気持ちで筆を執ったので、自分で書き下ろすのはとても大変でしたが、その思いを形にでき、ひとつの大きな区切りになりました」

TOMO KOIZUMI クリエイションブック Stitching Dreams 夢を縫う

TOMO KOIZUMI クリエイションブック Stitching Dreams 夢を縫う

2024年12月に講談社より刊行。独学でドレスづくりを始めた小泉さんが、自身のクリエイションの源泉や制作プロセスを、ビジュアルとともに率直に綴っている。小泉さんが使っている道具の紹介に加え、ビジネスやマーケティングの手法、SNSの活用法など、次世代のクリエイターに向けた実践的なアドバイスも盛り込まれている。
発行:講談社

続いて2025年9月には、NIKEとのコラボレーションでスニーカー「Nike Air Superfly × Tomo Koizumi」をリリース。世界各国で発売されました。

「世界中のトップアスリートたちと一緒にキャンペーンを撮影したり、そのためにジャマイカやアメリカのケンタッキー州を訪れたり。普段の自分の周りにはいないメダリストたちと話してインスピレーションを受け、それを制作に取り込むプロセスは本当に貴重な経験でした」

Nike Air Superfly × Tomo Koizumi

Nike Air Superfly × Tomo Koizumi

2025年9月に限定発売。ランニングシューズ「エア スーパーフライ」が小泉さんの手によって、虹色に煌めく一足へと生まれ変わった。TOMO KOIZUMIのシグネチャーであるフリルを用いたスウッシュなども付属し、カスタマイズも魅力のひとつとして話題に。デザインの着想源となったのは、日本のマンガと女性アスリート。元スプリンターのシェリー=アン・フレーザー=プライスや、日本の陸上競技選手である青木アリエらを起用したキャンペーンも展開された。
写真:©NIKE

さらに2025年10月には、自身初となるウエディングドレスのコレクション「TOMO's Brides」を発表。日本の伝統を宿したビンテージ着物のアップサイクル生地を、繊細なカラーのフリルと融合させ、新たな花嫁像を表現しました。

TOMO's Brides

TOMO's Brides

2025年10月のパリファッションウィーク期間中に発表された、TOMO KOIZUMI初のブライダルコレクション。色とりどりのドレスに加え、スパンコールやクリスタル、着物生地を取り入れた華やかなグローブやビスチェなどもそろう。2025年11月より、八芳園が展開する「The Bridal Boutique KOTOHOGI by HAPPO-EN」を通じてレンタルを開始した。
画像:Jumbo Tsui

活躍の舞台が世界に広がる中で、あらためて日本で制作し発表することに、小泉さんはどのような意味を感じているのでしょうか。

「日本で生まれて、東京を拠点にできているのは、すごくラッキーだと感じています。制作に必要なものが何でも手に入る場所ですから。日暮里の繊維街で手頃な生地が買えたおかげで、10代からたくさん失敗しながら服づくりに挑戦できた。当時の練習の積み重ねが、技術やデザイン力を育ててくれたと思っています。そうして東京で活動を続けるうちに、今では世界中から多くの人がアトリエに遊びに来てくれるようになりました。日本でつくって発信しているのが、よりプレミアムな価値としても映っているみたいで、いろんな人と会って話すたびに実感しているんです。」

つくり続けて、自分だけの表現を切り開く。

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ファッションやアートを取り巻くクリエイティブの環境は、今後どのように変化していくと考えているのでしょうか。また、その中で小泉さんが大切にしたいこととは?

「インターネットやSNS、AIの登場で、正解やクールさがすぐに見つけられる時代になっています。配色ひとつとっても、AIに聞けば正しい答えがすぐに出てくる。そんな今、何に価値があるのか、自分は何を生み出せるのかを、すごく考えます。完璧さよりも、その人ならではの個性や独自性が評価される時代になっていくと思いますし、自分もそれを大切にしたい。そうでなければ、生き残っていけないとも感じています」

その個性や独自性は、つくって発表し続けることで見えてくるものだと小泉さんはいいます。

「フィードバックをもらえて初めて、それが強みだと気づくことも多い。自分の場合は、好きな彩りを並べた配色がすごくユニークだと言われたのをきっかけに、それをオリジナリティとして意識するようになっていきました。つくって、発表して、反応をもらって、またつくる。そのくり返しの中、自分にしかできないものが生まれていくと思っています」

小泉さんの言葉は、これから表現の世界を志す若い世代へのエールでもあります。六本木の春風に揺れるフリルのように、小泉さんのクリエイションは、自由に、しなやかに、未来へと広がり続けています。

※本記事内の写真は特別な許可を得て撮影しています。ご鑑賞いただく際の作品エリアへの立ち入り・作品への接触はできませんのでご了承ください。

information

"Colors in Air"
【響き合う色彩】 ~風にとけあう、やさしい風景~

会場:東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン 芝生広場横
期間:2026年3月13日(金)~3月31日(火)※強風時は中止となる場合があります
主催:東京ミッドタウン
料金:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.tokyo-midtown.com/jp/event/7852/#anchor_4

小泉 智貴小泉 智貴 / ドレスデザイナー / 美術作家
小泉 智貴 / ドレスデザイナー / 美術作家

1988年、千葉県生まれ。15歳より独学でドレス作りを始める。2011年大学在学中に自身の名を冠するブランド「TOMO KOIZUMI」を立ち上げ、主にコスチュームデザイナーとしてコンサートやCM衣装を手がける。2019年にSNS を通じて見出され、ニューヨークで初のランウェイショーを開催。2021年東京オリンピック開会式にて国歌斉唱を務めたMISIAの衣装を担当。ドレスデザイナーとして活動する傍ら、2022年より美術作家としてもコンテンポラリーアートの制作を開始しパリや東京で個展を実施。作品はメトロポリタン美術館など多数の美術館に永久収蔵されている。顧客には、レディー・ガガやサム・スミスなど世界的アーティストを抱えている。2020年LVMHプライズ、第39回毎日ファッション大賞などを受賞。

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