椿昇さんと長嶋りかこさんのクリエイターインタビューから生まれたアイデア実現プロジェクト「森の学校」。自然とのフィジカルな触れ合いを通して感受性を育む場として、これまで多くの人に気づきとアートやデザインの面白さを伝えてきました。2年ぶりに復活となった今回は、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2019」の一環として、デザイナー・三澤遥さんが先生となり青空教室を行いました。子どもの頃から自然に触れてきたという三澤さんが、今回考えたオリジナル授業のテーマは「視点」。普段のデザインワークで培ってきた世界の見方を伝えます。いつも見ている風景が、ほんの少しのきっかけで180度変わる、そんな気づきを得られる内容となりました。2019年10月19日(土)に行われた教室の模様をお伝えします。
「森の学校」の青空教室から少し先にある、21_21 DESIGN SIGHTで開催された『虫展 -デザインのお手本-』に出展していた三澤さん。その作品づくりでの取り組みが、今回の授業に大きな影響を与えたと言います。
「幼い頃、山を走り回っていた私にとって、自然は身近な存在であり、何となく知ったつもりでいたんです。けれど、『虫展』の制作過程で、"私は自然のことを何も分かっていなかった"と打ちのめされたんです。ある意味、虫に傷つけられたというか(笑)。ただ、相当なショックと同時に、まだまだ知らないことだらけだと気づける嬉しさもありました」
その経験から、"デザイナーに何ができるんだろう"という壁にぶつかったと話します。
「"こういうものをつくりたい"という欲があるからモノをつくる。でも、自然の中にはすでに美しいものが、いくらでも存在しているんです。その中で自分は何ができるのかと考えた時、"美しいと思うポイントに気づき、伝えられるのがデザイナー"なのだと感じて。そこで、『虫展』では"視点"に重きを置いて展示を構成しました。今回の授業はその延長線上として考えてみました」
言葉通り、今回の授業のタイトルは『虫展』に出展した作品名と同じ『視点の採集』。「自分たちで見つけてきたもの、体感したものを気づきと結びつけたい」という思いで教壇に立った三澤さん。まずはレクチャーからスタートです。
「デザインとは、何かに触れ、体感する中で気づいたこと、発見したことを生かして、アイデアを足し引きしたり、ガラッと変えたりしていく積み重ねで生まれていくんです。今日は、そんなデザインの一連の作業をみなさんにも体験してもらうことで、"日常に視点の数を増やす試み"をできたらと考えています」
今回の授業は、三澤さんが普段行なっているデザインワークを体感するため、あるルールに則って東京ミッドタウン内に生息する植物を採集し、その後、集めた植物をテーブルに並べて編集するという形で行うと説明が続きます。
ここからはワークショップ開始に向けての準備。参加者は4つのチームに分かれ、それぞれ「質感」「数」「色」「形」のテーマに沿って植物を採集することがルールとして伝えられました。
「普段、私たちは何げなく周りのものを見てしまっていますが、今日は与えられたテーマの視点から植物を見てみます。そうやって意識して細かいことを考えたり、じっくり観察したりすることって普通はとても少ないのです」
4つの視点について、さらに深堀りしていきます。
「"質感チーム"の皆さんは、質感を意識して植物を採集してみてください。同じ植物でもここはカサカサしているけれど、実をとって手に乗せるとコロコロした質感になったりもするんです。そして、同じ赤でもマーブルのような赤もあれば、砂状のザラザラした赤もある。1枚の葉の中にもいろんな赤があると思いますので、"色チーム"の方々はそんなところを観察していただけたら。"数チーム"の皆さんは、ひとつの植物がどう分かれているかを見て、その数を数えていきます。さらに"形チーム"の皆さんは、植物をアイコンとして見たとき、どんな形を連想するかを考えながら採集してみてください」
いよいよここからは採集タイムに突入していきます。
4チームに分かれた参加者は、『ミッドタウン・ガーデン』を歩きながら、じっくり植物を観察。気になった葉や枝、落ち葉などを次々と採集していきます。「かわいい!」「面白い」と声を上げながら、茎の断面を観察する人、葉を裏返してジッと見る人......。それぞれがワクワクした表情で、植物を見る姿が印象的です。
三澤さんも気になった植物を手にしたり、生徒と会話を交わしたりしながら、一緒に採集していきます。ご自身も新たに発見があったようで、「一度、授業の準備で下見に来たのですが、思いもしないものがたくさんあって。浅くしか見ていなかったんだと思いました。皆さん、いろんな角度から植物を見て"どこから持ってきたの?"という、見たことのない植物を採集されているのがとても面白いです」と話します。
時間が経過すると、「こんな形、初めて見た! 折り紙みたい」「同じ木なのに、こっちとこっちで赤の色が違う」など、ふだんとは違う視点を意識したからこその発言が飛び交います。
その様子を見ていた三澤さんは、「採集が後半に差し掛かると、皆さんの言葉が"デザイン的"になってくるんです。最初は"キレイ""かわいい"といった形容詞だったのが、"左右対称だね""なんでここが赤いのだろう"など、造形として情報を意識されているのが分かる言葉が、どんどんと出てくるんです」と笑顔に。
こうして、約30分の採集時間はあっという間に過ぎ、たくさんの植物を手に教室へ戻る皆さん。次はチームで話し合いながら、編集作業へと入っていきます。
質感チームは、大量に採集した植物の触り心地をひとつずつ確認。「思ったよりツルツルしてる!」「水着にシワが寄るとこんな感じ(笑)」と思い思いに感じたことを口にしながら、触感ごとにクリアケースに分けていきます。1本の植物の中でも触感が違うため、時に解体しながら、お互いに感覚を共有しながら進行。
一方、数チームは、まずは数の「多いもの」「少ないもの」で植物を分けていきます。数をどう数えるかの視点が、人によって違うのも面白い部分。同じ花でも"花1本"という見方もできれば、"花びらが10枚"という数え方もできます。"何をどう数えるか"を話し合い、集中して数を出していきました。中には、ピンセットで花の綿を取り出し、「正」の字に並べる姿も。
形チームはテーブル上の黒板に書かれた、丸やうずまき、階段のような記号とにらめっこ。植物をアイコン上で見たとき、どの記号に当てはまるのかを全員でディスカッションし、分類していきます。葉っぱの形はもちろん、さまざまな角度から植物を見て、「立てて見ると直線だけど、倒して横から茎を見ると丸になる」など、視点を変えながら試行錯誤していました。
そして、色チームは緑→茶のグラデーションになるよう、植物を横に並べていきます。さらに同じような色でも、濃さが違うもの。色味で分けたものを、今度は濃い→薄いを縦軸で分類していきます。その後、形や質感にとらわれず、色だけを強調できるように、葉の一部を同じ形に型抜き。地道な作業が続きました。
その間、三澤さんは各チームをまわりながら、興味津々で、ワークショップを見守ります。
「参加した方がキラキラした目で、夢中になって作業される姿が印象的でした。しばらくすると、隣のチーム同士で"これあげる""こんなものはない?"と物々交換、コミュニケーションが生まれ出したんです。植物を介して新しい関係性が生まれ、今日会ったばかりとは思えないほど、一瞬で皆さんが打ち解けていくのが新鮮でした」
開催日時:2019年10月19日(土)13:30~15:30
場所:東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン特設会場
詳細:https://6mirai.tokyo-midtown.com/event/2019_pjt04/index.html