小山登美夫ギャラリー六本木では、7月5日(土)まで、オノ・ヨーコ展「A statue was here 一つの像がここにあった」が開催中です。
70年以上にわたるキャリアを通して、アート界のみならず社会的にも影響を及ぼしてきたオノ・ヨーコ氏。本展は、氏にとって9年ぶり3度目となる同ギャラリーでの個展で、六本木と天王洲の2か所で同時開催しています。
六本木では、白と透明色のアクリルと既製品を組み合わせた作品に焦点をあてました。オノ氏が「コンセプチュアル・オブジェクト」と呼ぶ作品群の中でも、1960年代に初めて制作されたオブジェ作品の一部が展示される貴重な機会となっています。
入口に出迎えるのは、本展が初公開となる《Three Lives》。三つの楕円形の鏡を並べ、写り込む鑑賞者の姿を捉えた作品です。向かって左の鏡は鏡面を美しく保ち、真ん中は光で鑑賞者を照らす二つのライト付き。そして向かって右の鏡は、ひび割れて破損しています。
これら三つの鏡を順に鑑賞することで、鑑賞者自身の姿が投影され、いつも見ている自分とは異なる状態の像が映し出されていきます。本展のイントロダクションとして、オノ氏の世界にゆっくりと入り込むイメージで設置されたそうです。
白と透明の球体、タバコ、コイン、石でできた本、塩入れが展示された《Mind Object I》は、鑑賞者自身が頭の中で想像してこれらのパーツを組み合わせ、オブジェクトを創造するように促します。どんな形に組み上げるのかは鑑賞者次第。見る者の数だけ答えがあるため、自分なりの正解を導いてみましょう。
さらに《Mind Object ll》では、ガラス瓶が一つ置かれたガラス台に、「NOT TO BE APPRECIATED UNTIL IT'S BROKEN(壊れるまで鑑賞しないこと)」と彫り込みがあります。このインストラクションは、壊れたガラス瓶を想像させることを喚起させます。はじめは台の上に向けていた視線も、言葉の意図を理解することで足元へと目線を落としていくような変化も感じられる印象的な作品です。
《Fly Piece》は、額装された真っ白なキャンバスと、その正面に置かれた真っ白な脚立のそれぞれに「Fly/Fly I」と書かれた作品。飛ぶことを想像させる「FLY」というたった一言で心を動かす手法は、詩人としても活躍するオノ氏ならではかもしれません。
本展のタイトルにもなっている《A statue was here》、つまり「一つの像がここにあった」と伝える空間展示は、最も鑑賞者の想像力を問う作品でしょう。この言葉は、作品集『Grapefruit』(1970年刊行版)にも掲載され、存在と不在が交差する不思議な体験ができます。かつてこの場にあった像はどんな大きさ、形、色をしていたのでしょうか。
《Hide Me》も同様のコンセプトで制作された作品です。タイトルのみが刻まれた透明な台座が存在するのみで、それ以外には何もありません。台座の上に乗っているはずの作品は、どこかに隠れてしまったことを想像させます。きっとそこにあったはずのものや、不在となった空間に思いを馳せる時間そのものが作品となるのです。
「知恵を持って直しなさい、愛を持って直しなさい それは同時に地球を直すことにもなるでしょう」というオノ氏の言葉から、壊れた器を直していくインストラクションアート《Mend Piece》。能登半島地震により割れてしまった白磁の破片を、セロテープ、ボンド、麻ひもを用いて接着していきます。
ただし、直すと言っても、元の形に戻す必要はありません。組み合わせるパーツを自身で考え、新たな形を生み出すことが許されています。生まれ変わった白磁は作品として棚に飾り、多様な姿へと変化させた体験者たちのアイデアに触れる場として昇華されていくのです。
作品を通して鑑賞者が最大限まで喚起させられた想像力で思い浮かべるのは、一体どんなものなのでしょうか。
「究極的には『すべての芸術作品は未完成である』」と主張するオノ氏の言葉どおり、作品が鑑賞者の目に留まり、想像されることで初めて完成する作品ばかり。展覧会という"場"であるからこそ楽しめる、真実と不明の混和をぜひ体感してください。
編集部 福島
オノ・ヨーコ展「A statue was here 一つの像がここにあった」
会期:2025年6月10日(火)~7月5日(土)
時間:11:00~19:00
休館日:日曜日・月曜日・祝日
会場:小山登美夫ギャラリー六本木(東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F)
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/yokoono2025/