サントリー美術館で、11月10日(日)まで「没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―」が開催中です。本展は、江戸を中心に活躍した絵師、英一蝶(はなぶさいっちょう)の過去最大規模の回顧展です。
一蝶は元禄11年(1698年)に三宅島へ流罪になります。それ以前は「多賀朝湖(たがちょうこ)」などと名乗っていましたが、島流し時代の作品は「島一蝶(しまいっちょう)」と呼ばれています。そして、宝永6年(1709年)に恩赦で江戸に戻ってからは画名を「英一蝶」に改めています。本展では、この名前に倣った3章構成となっており、緩やかな時系列で作品を紹介しています。
「第1章 多賀朝湖時代」では、狩野派に基盤を持ちながらも、風俗画家として能力を開花させていく様子を見ることができます。特に、伝統的な花鳥画からかわいらしい子犬や猫など、幅広い題材がまとめられた《雑画帖》は必見です。全三十六図すべてが一蝶展に出品されるのは初のことだそうです。
一蝶は、菱川師宣や岩佐又兵衛らにも影響を受けたと言われています。身体をひねって背後に視線を向ける女性を描いた《立美人図》は、その最たる例です。風俗画に挑戦する初期の作例として貴重な一作です。
「第2章 島一蝶時代」では、島流し後の作品を見ることができます。この時期の作品は、江戸から注文を受けたものと、近隣の島民のために制作したものの2つに大別できます。《神馬図額》など、島外初公開となる作品もあるのでお見逃しなく。
当時、島流しになった者はその後の生涯を島で過ごすことがほとんど。一蝶も、二度と帰れないとの覚悟のもと、華やかな江戸の風景を描いていたのだろうと推測されています。《吉原風俗図巻》は、太鼓持ちとして遊郭によく出入りしていた一蝶の視点が光る一作となっています。
最後の「第3章 英一蝶時代」では、奇跡的に江戸に戻り名を「英一蝶」に改めたあとの作品が中心です。特に見逃せないのがメトロポリタン美術館所蔵の《舞楽図・唐獅子図屛風》。
両面が描かれた屛風で、今回は特別に表面・裏面どちらも鑑賞できる形で展示されています。表のきめ細かさに相反するように、裏には獅子がダイナミックに描かれています。
再帰後は風俗画から離れる決意を固めた一蝶。それを裏付けるかのような花鳥画や風景画、仏画が見られます。一方で、《雨宿り図屛風》や《田園風俗図屛風》のような大作の風俗画も残されています。
絵師としてはもちろん、太鼓持ちや俳人としてもマルチな才能を発揮し、波乱万丈な人生を送った一蝶。貴重な作品の数々をとおしてその一生を辿る本展に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
編集部 齊藤
「没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―」
会期:2024年9月18日(水)~11月10日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います
休館日:火曜日
※11月5日(火)は18:00まで開館
開館時間:10:00~18:00
※金曜日および11月9日(土)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
主催:サントリー美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
協賛:三井不動産、三井住友海上火災保険、サントリーホールディングス
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2024_4/index.html