国立新美術館では6月3日(月)まで、「遠距離現在 Universal / Remote」が開催中です。本展は2020年から続いたパンデミックの3年間について、現代美術を通して振り返ります。同館主催の現代美術のグループ展はおよそ5年ぶりで、このたび8名と1組の作家が参加します。
タイトルの「遠距離現在 Universal / Remote」とは、常に遠くあり続ける現在を忘れないように、という意味が込められた造語です。「Universal Remote」とは、本来は万能リモコンを意味します。それをスラッシュで分断することで、万能性にくさびを打ち、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)をあらわにします。
本展では、海外を拠点に活動する作家の作品が多く出展されています。日本からは、井田大介氏、地主麻衣子氏、木浦奈津子氏の3名が参加しています。
井田氏は彫刻という表現形式を問いながら、現代の社会の構造や人々の意識・欲望を彫刻・映像・3DCGなどのメディアを用いて視覚化するアーティストです。本展のために再構成された3点の映像作品《誰が為に鐘は鳴る》、《イカロス》、《Fever》を出展しています。
映像、インスタレーション、パフォーマンス、テキストなどを総合的に組み合わせて「新しいかたちの文学的な体験」を制作する地主氏。本展では、彼女の「心の恋人」である詩人・小説家のロベルト・ボラーニョの最期の地、スペインを訪れる旅を描いた映像作品《遠いデュエット》を見ることができます。
なお、森美術館では「MAMプロジェクト031」にて新作のインスタレーション《空耳》が展示されています。こちらは3月31日(日)までの展示なのでお早めに。
木浦氏は鹿児島在住の画家で、主に日常の風景を油絵で表現しています。本展では新作を交えた大小さまざまな風景画が壁いっぱいに展示されています。やさしい色遣いで、どこかほっとさせるような魅力がありました。
エングホフ氏はデンマーク出身の作家で、今回が日本初出品。記録写真における表象と可視性の問題を扱っています。本展では、孤独死した人の身元引受人を探すための新聞記事に着想を得た〈心当たりあるご親族へ〉シリーズを出展。社会福祉が充実したイメージとは裏腹な隠れた孤独について問いかけます。
アーティストでありハッカーでもあると自称するロス氏は、〈インターネット・キャッシュ自画像〉シリーズのうちの一つ《あなたが生まれてから》を展示しています。本作は自身のコンピューターのキャッシュを壁・床一面に敷き詰めたインスタレーションで、彼の次女が誕生した日以降にキャッシュされた画像が用いられています。
そのほか、ニューヨークと北京を拠点として世界的に活躍する現代美術の巨匠、徐冰(シュ・ビン)氏による初の映像作品《とんぼの眼》を上映。ネット上に公開されている監視カメラの映像のつなぎ合わせで作られた、若い男女を主人公にした物語です。
ヒト・シュタイエル氏とジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ氏、ミロス・トラキロヴィチ氏の共同制作による《ミッション完了:ベランシージ》は、ファッションをキーワードに政治、社会問題まで多岐にわたる問題に切り込むインスタレーションです。
軍事機密や監視通信システム、AIによる自動生成イメージなどをテーマにしているトレヴァー・パグレン氏は、写真作品を出展。一見のどかな海や水中の写真から、生成AIによる画像まで、全部で3シリーズが展開されます。
ソウル出身のチャ・ジェミン氏は映像、パフォーマンス、インスタレーションと執筆活動まで多岐にわたって活動しているアーティスト。彼女も日本初出品の作家で、今回は映像作品《迷宮とクロマキー》を上映します。
国際的なアーティストの作品を通じて、パンデミックが世界に与えた影響、そして今後の社会との向き合い方をあらためて考えさせられる展覧会でした。
編集部 齊藤
「遠距離現在 Universal / Remote」
会期:2024年3月6日(水)~6月3日(月) 休館日:毎週火曜日
※ただし4月30日(火)は開館
開館時間:10:00~18:00(毎週金・土曜日は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E
主催:国立新美術館
協力:ゲーテ・インスティトゥート東京
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://matisse2024.jp