10月25日(水)、2023年度の「グッドデザイン賞」大賞が発表されました。応募総数5,447件、さまざまなジャンルの候補の中から選ばれたのは、千葉県八千代市の高齢者施設「52間の縁側」でした。
老人デイサービスセンター「52間の縁側」は、有限会社オールフォアワンと株式会社山﨑健太郎デザインワークショップにより建てられた、地域の人たちが気軽に立ち寄れる、縁側のような空間。高齢者や子ども、地域住民の誰にとっても居場所となり、困ったときに助け合える福祉の地域拠点となっています。赤ちゃんからお年寄りまで誰でも訪れることができる環境となっており、お年寄りが子どもを見守ったり、子どもが大人の手伝いをしたり、昔は当たり前にあったであろう風景を日常的に見ることができます。
長い縁側と広い軒下空間がそのコンセプトを見事に体現させており、「建築時から庭づくりのワークショップなどを重ね、信頼される場づくりに努めてきた。その着実なアプローチも含めて高く評価できる」と支持を集めました。
有限会社オールフォアワンの代表・石井英寿さんは当施設について「さまざまな面で効率化や利便性が求められている時代の中で、高齢者が人として尊厳を持って生きられる場が必要と考えてこの施設を作りました。いまの社会から失われつつある、昔の暮らしに当たり前にみられた光景をこの場を通じて取り戻すことで、高齢者だけでなく誰もが幸せに生きられる社会を目指したいです」と熱い思いを寄せており、大賞のトロフィーを受け取った際には「みなさんのおかげです。それ以上の言葉はありません」と感無量の様子を見せました。
審査委員長の齋藤精一さんは、「今年度は『アウトカムがあるデザイン』というテーマを掲げて募集したのですが、北極星を見つけることではなく、それに対して一歩踏み出すこと、というのがこの言葉に込められている意味ではないかと思いました」と述べました。
さらに、「大きなマーケットだから建築をつくるという経済合理性だけではなく、マーケットが小さくてもデザインを必要としているところにちゃんと届くような、そんな役割を定義できたように感じます」と講評しました。
審査副委員長の倉本仁さんは石井さんのプレゼンを「素晴らしかった」と評し、「『52間の縁側』だけでなく、今回の最終選出会全体をとおして、"未来"を見た気がしています」と感慨深げでした。
また「企業の取り組みや、ローカルコミュニティ、そして実はまだみんなが気づいてないような問題を勇気を持って表現し、答えを提示していくことで、まだまだ世の中はよくなるだろうという未来を感じました」と賛辞を贈りました。
同じく審査副委員長の永山祐子さんは「クライアントと建築家の素晴らしいタッグを見せていただき、こんな幸せなプロジェクトがあるのかと思いました。世の中を変えるようなものは共犯関係にならないと作り上げられないと思うので、これが出来上がっていることが奇跡だなと。それを社会に提示できたことに感動しました」と、建築家ならではの所感を述べました。
近年、社会課題解決の手段としてのデザインに、ますます注目が集まっています。今年度の「グッドデザイン大賞」もその流れを受け、高齢化時代をしなやかに切り拓くヒントに満ちた、希望を感じさせるプロジェクトとなっていました。
編集部 最上