サントリー美術館では、12月3日(日)まで「激動の時代 幕末明治の絵師たち」を開催しています。主に天保年間から明治初期までに注目し、時代の変わり目となった幕末明治に活躍した絵師による作品を紹介する展覧会です。
第1章では「幕末の江戸画壇」と題し、浮世絵をはじめとして狩野派や南蘋(なんぴん)派、文人画など多彩な作品が誕生した19世紀の江戸に着目します。
まず、会場に入ってすぐ目に飛び込んでくるのは《五百羅漢図》。幕府の御用絵師として重宝された狩野派の門下から現れた、狩野一信の作品です。従来の狩野派とは異なる独創的な表現が目をひきます。
羅漢とは、悟りを開いた高僧を指します。地獄に落ちた亡者を救おうとする、表情豊かな羅漢たち。極彩色の大きな画面に圧倒されます。
第2章「幕末の洋風画」では、西洋画法を取り入れた洋風画が紹介されます。鎖国下で情報が限られていましたが、江戸時代中期には蘭学が盛んになり、後半には舶載の銅版画や洋書が多く流入。陰影法や遠近法など、西洋画法を取り入れた作品が制作されるようになります。
特にフォーカスされているのが、葛飾北斎の門人である安田雷洲(らいしゅう)。銅版画を得意としましたが、独特の西洋表現が見受けられる肉筆画も描いています。中でも、《赤穂義士報讐図》はキリストを抱く聖母マリアの構図を、吉良上野介の首を討ち取った赤穂義士に置き換えたもの。安田雷洲にどれほどキリスト教の知識があったかはわかりませんが、大変興味深い作品です。
役者絵や美人画が中心だった浮世絵は、幕末になると新たな動きが見られます。第3章「幕末浮世絵の世界」では、より刺激的に発展した浮世絵の数々が展示されています。
幕末の浮世絵界では、歌川派が勢力を拡大していきます。歌川派の一人、五雲亭貞秀(ごうんていさだひで)による《横浜異人商館座敷之図》は、開港した横浜が舞台。この作品では服のしわに影が描かれていますが、このような表現は当時「異国」的なものを描く際に用いられました。
最後となる第4章「激動期の絵師」では、江戸から東京と改称され、年号が明治に改められた、変化の目まぐるしい時代における絵師や作品に焦点を当てています。
近代歴史画の祖とされる菊池容斎や、血みどろ絵が有名な月岡芳年、光線画で知られる小林清親(きよちか)など、江戸~東京で活躍した絵師を取り上げます。
また、同館では2019年に展覧会「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」 が開催されましたが、河鍋暁斎も幕末明治で人気を博した絵師の一人。本展でも作品が紹介されています。
世相が変わりゆく時代を生きた絵師たちの、パワフルでエネルギッシュな作品に触れられる展覧会でした。100年以上前の作品とはいえ、現代を生きる私たちの感性にも響くものがあるのではないでしょうか。新たなインスピレーションを求めている方は、ぜひ足を運んでみてください。
編集部 齊藤
「激動の時代 幕末明治の絵師たち」
会期:2023年10月11日(水)~12月3日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
休館日:火曜日
※11月28日は18:00まで開館
開館時間:10:00~18:00(金曜日・土曜日は10:00~20:00)
※11月22日(水)は20:00まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
主催:サントリー美術館、朝日新聞社
協賛:三井不動産、三井住友海上火災保険、サントリーホールディングス
展覧会HP(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2023_4/