森美術館では、2023年 9月24日(日)まで、開館20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」を開催しています。
本展の最大の特徴は、「国語」「社会」「哲学」「算数」「理科」「音楽」「体育」「総合」という教科ごとにセクションを分けて作品を展示している点です。もちろん、個々の作品には複数の領域に通じる側面がありますが、学校の授業という身近な入り口から、現代アートに触れることができます。
米田知子による「見えるものと見えないもののあいだ」シリーズは、近現代の知識人にゆかりのある資料を、彼らが実際に着用していた眼鏡のレンズを通して見つめることができるモノクロ写真の作品群です。本展では、そのうち5点が「国語」のセクションに展示されています。谷崎潤一郎の眼鏡を通して見えるのは、彼が妻の松子夫人に送った手紙。「私をいやし」という言葉が見えます。
今回の展示において最も大きなボリュームを占めている科目は「社会」です。その中で、最初に目に留まったのは、社会彫刻という概念を提唱したヨーゼフ・ボイスによる「黒板」でした。これは、1984年に来日したボイスが東京藝術大学の学生たちに向けて行った講義で使われたもの。本展の「哲学」のセクションで作品が展示されている宮島達男はその講義で司会を務めていたそうですが、「そのときは、まったく訳が分からなかった」と語っていました。黒板を眺めて、そんな講義に思いをはせてみても面白いかもしれません。
《グラフィック・エクスチェンジ》は、ジャカルタの街に古くからある商店や事業者の看板を譲り受ける代わりに、新たな看板のデザインや制作を請け負うというプロジェクトです。壁一面に看板が飾られた展示はダイナミックで迫力があります。
日本を代表するアーティストの一人、奈良美智による《Miss Moonlight》は「哲学」のセクションで紹介されています。静かに目を閉じる少女の、その神秘的な魅力に引き込まれます。
「算数」のセクションで紹介されている片山真妃の《P4M4》や《F3P4#3》といった作品は、一見したところ不思議な模様が描かれている抽象絵画ですが、これらは全て独自の法則に則って描かれたものだそう。一緒に展示されている制作過程の解説も併せて見ると、その数学的な思考のプロセスが垣間見えて興味深いです。
ペーター・フィッシュリとダヴィッド・ヴァイスによる《事の次第》は約30分の映像作品で、NHKで放送される子ども番組「ピタゴラスイッチ」とイメージが近いかもしれません。「理科」という科目は、「化学」「生物」など細分化されますが、本作からは「物理」の要素を強く感じます。森美術館館長である片岡真実も、初めて見たときのことを覚えているくらい、印象深い作品であると話していました。
森美術館が保有するコレクションが半数以上を占める本展ですが、もちろん新作も楽しめます。宮永愛子による《Root of Steps》は、常温で昇華するナフタリンで作られた複数の靴からなるインスタレーション作品。六本木周辺で仕事や生活をしている人が実際に履いていた靴を元にしています。
「音楽」と「体育」のセクションでは、興味深い映像プログラムが複数用意されています。上演時間を確認のうえ、ぜひお目当てのものを楽しんでみてください。
最後の科目は「総合」です。実際の都市を使ったパフォーマンスや社会実験などを行ってきた高山明によるプロジェクトの中から、東京を舞台にしたものが展示されていました。また、会期中はマクドナルド六本木ヒルズ店で体験できる《マクドナルド大学》が実施中です。
ちなみに、本展のチケットの半券を見せるとマックフライポテトのSサイズがもらえ、マクドナルドで食事をしてから本展に足を運んだ人には特別なポストカードのプレゼントがあるそうです。そうした課外授業も、あわせて楽しんで見てはいかがでしょうか。
森美術館をアートの「教室」に見立てた非常に面白い企画となっています。学校で習う8つの科目を入り口として現代アートを通して世界に目を向けることで、何か新しい発見があるかもしれません。
編集部 尾原
「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」
会期:2023年4月19日(水)~2023年9月24日(日)
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
休館日:会期中無休
開館時間:10:00~22:00
※会期中の火曜日は17:00まで
※ただし8月15日(火)は22:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前まで
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.mori.art.museum