東京・赤坂の草月会館とタカ・イシイギャラリーにて、英国人現代美術作家ケリス・ウィン・エヴァンスの個展が開催中です。
エヴァンスは文学・映画・美術といった伝達手段を、テキストや記号、イメージ、光、音などを運ぶ器と捉えています。そして作品を通じて、これらを別の器に移し替え、「変換」していく作業を行っています。まずは、草月会館の展示から見ていきましょう。
イサム・ノグチ作の石庭「天国」全体に、大型の作品が展示されています。中でも目を引くのは、最上段に配置された大型ネオン作品《F=O=U=N=T=A=I=N》(2020年)。吉川一義氏によるマルセル・プルースト『失われた時を求めて』第四篇「ソドムとゴモラ」(1921/22年)の日本語訳(出典:マルセル・プルースト作/吉川一義訳『失われた時を求めて 8』(岩波文庫、2015年刊)pp136-138より抜粋)を基にしています。
翻訳には、原文にはないニュアンスが加わることがしばしばあります。本作も、フランス語から日本語へ変換されることで、新たな魅力が加わっています。さらに、紙に書かれた小説の文章をネオンという発光物質に変換しています。
その隣に位置するのは、37本のクリスタルガラス製のフルートとコンプレッサーで構成される、自動演奏作品《Composition for 37 flutes》(2018年)。アルゴリズムに基づき自動でフルートに空気が送られ、会場内に和音・不協和音を奏でています。その音が石庭に流れる水音と合わさり、筆舌に尽くし難い神秘的な雰囲気が醸し出されています。
その周りを、光の柱作品と松の木が囲みます。明滅を繰り返す光の柱と、鉢ごとゆっくりと回転する松の木。眺めていると、時間の流れまでゆったりと変化していくように感じました。
草月会館から六本木方面へ歩くこと20分強、タカ・イシイギャラリーのある「complex665」に到着します。ギャラリーの入り口には、エヴァンスの名だけが記されており、シンプルかつ洗練された印象を与えます。
真っ白な壁で囲まれた空間の中に点在する植木。正面には「Look at that picture, how does it seem to you now... Does it seem to be persisting?」と書かれたネオン管が輝きます。大きな作品が展示されていた草月会館とは対照的です。
中へ進むと、壁に三枚のガラス板が立てかけられています。角度によっては、ネオン管の光や植木の影、自分自身が映り込みます。
植木をよく見ると、新芽が芽吹いているものや、花が朽ち始めているものも。植木は、窓の向こうにもいくつか置かれています。今回の展示に合わせ、バルコニーにあった植木の一部を室内に取り込んだそうです。少し開けられた窓から外の風が吹き込み、室内に春の香りを届けます。
草月会館での展示では、あらゆる角度から展示の内容や作品について、雄弁に語りかけている様に見えましたが、complex 665の展示では、あえて多くを語らず、見るもの自身に解釈を委ねる展示になっていました。未知の世界への扉を開いてくれるような本展。ぜひ散歩のついでに訪れてみてはいかがでしょうか。
編集部 齊藤
「ケリス・ウィン・エヴァンス」
会場:
草月会館1F 草月プラザ 石庭「天国」(東京都港区赤坂7-2-21)
定休日:日曜日
時間:10:00~17:00
会期:会期:2023年4月1日(土)~4月29日(土)
主催:タカ・イシイギャラリー
特別協賛:ロエベ財団
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.takaishiigallery.com/jp/archives/28684/
タカ・イシイギャラリー(東京都港区六本木 6-5-24 complex665 3F)
定休日:日曜日・月曜日・祝祭日
時間:12:00~19:00
会期:2023年4月1日(土)~4月28日(金)
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.takaishiigallery.com/jp/archives/28681/