ANB Tokyoでは10月14日(金)から10月25日(火)まで、「GEMINI Laboratory Exhibition」が開催されました。
「GEMINI Laboratory」とは、凸版印刷株式会社によって発足されたプロジェクト。アーティスト・建築家・研究者・ユーザーなどさまざまなプレイヤーとの共創で、仮想空間に関するアイデアを議論・検証し、社会実装の実現を目指すものです。
本展では、ミラーワールドによってもたらされる心理や身体感覚について制作・キュレーションされた作品が並びました。また、凸版印刷の情報技術研究部門による最新のCAD技術・3Dプリンティング技術を活用した展示やデモンストレーションなども見ることができました。
今回取り上げられた複雑なテーマを紐解くべく、本展は3つのチャプターに沿って進んでいきます。まずは、「第1景 バタフライ効果」。
このチャプターのひとつめの作品は酒井康史氏による参加型の展示です。投票所の記入台にiPadが設置されており、その画面上には、バーチャル上の架空の都市の用途地域を決めるための稟議書が提示されています。稟議書に対して画面上のボタンで「承認」と「却下」をするのですが、肝心な稟議書には不可解な記号や関連のなさそうな提案者のプロフィールなどが書かれており、よくわからないまま観客が決定をすると、バーチャル上の都市の様相が変わっていく仕組みになっています。
次に展示されていたのは、スプツニ子!氏による映像作品。アップテンポな音楽にのせて、"科学オタク"の主人公が月面にハイヒールの跡を残すための装置を開発するというストーリーが描かれます。モニターの下には月面をイメージした砂が広がっていました。
未だに月面に降り立った女性が存在しないということで、そこに女性性を強調するようなハイヒールの跡を残すことに、どんな意味が込められているのでしょうか。カラフルでポップな映像や音楽を楽しむだけではなく、一人ひとりが現代社会においてどのようなアクションを起こすことができるかなど、さまざまなことを考えさせられる作品です。
続いて、「第2景 重なり合うイメージ」。
砂木による作品は、「2人掛けのスツール」というタイトルですが、見る限り1人しか座れそうにありません。でもそれは現実世界での話であって、バーチャル上の世界では2人が同一平面上に存在することが可能です。"デジタルは冷たい"、そんなイメージを持たれることも多いですが、1人しか座れないスツールを取り合う現実世界と、重なり合って2人が座れるバーチャル世界。デジタルのこれからの捉え方が変わっていく未来を予見していそうです。
プロジェクターによってL字型に映し出された映像とブラウン管テレビ、イラストの3つの要素から成るのは、菅野歩美氏による台湾でのフィールドリサーチを通して生まれた作品です。
「村を徘徊する身体のない猿」の幽霊という地元の怪談話から派生した作り話にフォーカスするなど、作家自身の素朴な興味や疑問、パーソナルな視点が特徴的です。上述の砂木の「二人がけのスツール」と同様に、バーチャルな世界がもたらす世界が変わっていくことを示しているようで、それらを通して、観賞する私たちの想像力も掻き立てられていくようです。
最後のチャプターは、「第3景 統一のOS」。
会場に広がるのは、エキソニモによる"メタバース上のペットショップ空間"。実際のペットショップのように檻に閉じ込められた画面越しのペットを購入することができ、また購入したペットを、ペットの毛皮模様のNFTと交換したりすることができます。
しかし、ペットはNFTになると消え、バーチャル上で"死んでしまう"仕掛け。ペットを飼うことや、動物を毛皮模様のために消費することを連想させる作品は、見る人の倫理観に訴えかけ、この先の未来の問題を予感させます。
最後に登場するのは、充彗氏による「cloud」です。中央にはシナプスをイメージしたという雲のようなものが浮かんでおり、地面にはモニターがいくつか設置されています。
実は本作、最初に展示されていた酒井氏の作品とのコラボレーション。自分が何の気なしにした「承認」もしくは「却下」の判断が、架空の都市で暮らす人々の出生率や死亡者数にリアルタイムで呼応し、雲の色づき方などに影響を及ぼす仕組みです。ちなみに、4Fと3Fの間の階段の踊り場で、変化が起きる前夜の都市の様子を見ることもできました。
全体を通してコンセプチュアルな展示が多かったものの、実際に触れたり、解説を読んでみたりすることでなんとなく意図が掴めたような気がします。同時に、キュレーターを務める丹原健翔氏が話す通り、「一度なるほどと思っても、考えてみるともっと複雑なレイヤーがある」ため、どんどん自分の思想の深いところへ沈んでいく感覚にもなります。
今後、果てしなく広がっていくであろうバーチャル上の世界に想いを馳せる機会となりました。
編集部 尾原
ANB Tokyo「GEMINI Laboratory Exhibition」
会期:2022年10月14日(金)~10月25日(火)
開催期間:12:00~20:00
会場:ANB Tokyo
住所:港区六本木5-2-4(六本木駅から徒歩3分)
入場料:無料
※予約不要
主催・企画:GEMINI Laboratory powered by TOPPAN Inc.
キュレーション:丹原健翔(アマトリウム株式会社)
会場構成:SUNAKI Inc.(担当:塩崎拓馬、砂山太一)
ディレクション:FabCafe LLP
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://gemin1.xyz/