2022年8月10日(水)~11月7日(月)に国立新美術館で開催される「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」に先立ち、記者発表会が6月8日(水)に行われました。本レポートでは、発表会の様子と作品紹介を、当日のコメントと共にお届けします。
本展は、国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家・李氏の、東京では初めてとなる大規模な回顧展です。展示構成は李氏本人が考案し、大きく分けて彫刻と絵画の2セクションで成り立っています。
冒頭では、国立新美術館長の逢坂恵理子氏から、1970年頃より国内外で精力的に活動してきた李氏について、2014年のヴェルサイユ宮殿での個展や、香川県直島にある李禹煥美術館などに触れながら紹介されました。
続いて、国立新美術館の米田尚輝主任研究員から、彫刻・絵画作品についての解説がありました。
《関係項》という作品では、一見すると、ガラスが割れているように思えます。しかし実際に割れているのは下層にある鉄板で、ガラスは割れていません。実際に作品を眺め、ガラスに反射して映る自身の姿を通して初めてこの事実に気付く、という構造になっています。
また、近年の李氏の彫刻でよく用いられる鏡面仕上げのステンレスについては、「李氏の作品や著述で強調される"無限"の概念を示唆する素材では」との見方も示しました。
続いて絵画作品の紹介に移り、1970年半ばから1990年に至るまでの作風の変化が解説されました。
1970年代に制作され、李氏の代表作の一つとされる《点より》《線より》のシリーズでは、色彩の濃さが徐々に淡くなる過程が表されています。行為の痕跡によって時間の経過を示すことから、"時間の絵画"とも言えます。
1980年代に入ると、《風と共に》に見られるように、荒々しい筆遣いによる混沌とした様相を呈していきます。《点より》《線より》とは対照的に、余白がカンヴァスの大部分を占めています。
そして、李氏と米田主任研究員の対談では、東京で初となる個展への想いや、若い世代に向けたメッセージなどが語られました。
これまで欧米の名だたる美術館で個展を開催してきた李氏は、今回東京で作品を展示することについて、「生まれは韓国ですが、すでに60年以上、日本に住んでいます。始点に立ち返る機会を与えられ、本当にありがたいと思っています」と述べました。
さらに、活動初期は欧米での理解を得られず孤独を感じたことも多かったそうですが、政治や経済のグローバルな変化の中で「"自分以外の要素を引き入れて表現を試みるべき"という主張が理解されはじめ、その問題提起がさまざまな地域で受け入れられたのでは」と解釈しているとも述べました。
また、若い世代に向けては、「高度なテクノロジーを使うことも大事だが、"身体"も大事にしてほしい。体の奥から発する表現力を身につけてほしい」とエールを送りました。
最後には「日本は住みやすい場所だが、世界で戦ったり、大きな問題提起をしたりして、ダイナミックな生き方をしてほしい」というメッセージで締められました。
「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」は、8月10日(水)から開催されます。「もの派」にいたる前の初期作品から、彫刻の概念を変えた《関係項》シリーズ、そして近年の作品など代表作が一堂に会し、新たな境地を示す新作も出品される予定です。ぜひ足を運んでみてください。
編集部 丹羽
国立新美術館開館15周年記念 李禹煥
会期:2022年8月10日(水)~11月7日(月)
※毎週火曜日休館
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,700円、大学生1,200円、高校生800円
※中学生以下は入場無料
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
会場:国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558東京都港区六本木7-22-2
主催:国立新美術館、朝日新聞社、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
協力:SCAI THE BATHHOUSE
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://leeufan.exhibit.jp/