国立新美術館では5月30日(月)まで、メトロポリタン美術館に所蔵されている巨匠たちの傑作が集う「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」が開催されています。
1870年に創立されたアメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館は、先史時代から現代まで、5,000年以上にわたる世界各地の文化遺産を包括的に所蔵。本展では、ヨーロッパ絵画部門に属する約2500点の所蔵品より、15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派まで、選りすぐられた珠玉の名画65点(うち46点は日本初公開)が展示されています。
展示構成は「Ⅰ.信仰とルネサンス」「Ⅱ.絶対主義と啓蒙主義の時代」「III.革命と人々のための芸術」の3章構成。Ⅰのセクションでは、古代美術を手本としながら立体的・写実的な表現を目指したルネサンス期のイタリアの画家たちの挑戦を見ることができます。中世で平面的に描かれ、神性を強調されていたキリストや聖母も、まるでそこにいるかのような生き生きとした描かれ方をしているのが分かります。
女神ヴィーナスと美青年アドニスの悲劇の物語を描いた《ヴィーナスとアドニス》では、片足を踏み出すアドニスと彼を引き留めるヴィーナスの動作、雲間から差すドラマティックな光を楽しむことができます。
一方、16世紀に宗教改革が起こったドイツやネーデルラント(ほぼ現在のオランダ、ベルギーを中心とした広い範囲を指す地域概念)では、プロテスタントによる聖画像礼拝の禁止を受けて、宗教画の需要は減り、神話画や肖像画が隆盛しました。
君主が主権を掌握する絶対主義体制がヨーロッパ各国で強化された17世紀から、啓蒙思想が隆盛した18世紀にかけての絵画が展示されているのが「Ⅱ.絶対主義と啓蒙主義の時代」のセクションです。
カトリック圏のイタリア、スペイン、フランドルでは、信仰心を高揚させる宗教画が制作され、スペイン国王フェリペ4世の宮廷では、王侯貴族の壮麗な肖像画が盛んに描かれました。共和国として市民社会をいち早く実現したオランダでは、市民や農民の日常生活に題材を得た風俗画が生まれるなど、それぞれ独立したジャンルとして絵画表現は発展していきました。
18世紀初頭、ルイ14世の治世晩年になると、フランスでは軽やかで優美なロココ様式の絵画が現れ、世紀半ばにかけて流行しました。写真の《ヴィーナスの化粧》を描いたのはロココ美術を最盛期に導いたフランソワ・ブーシェ。磁器のように白く滑らかなヴィーナスの肌、愛らしいキューピッドや白いハト、全体の淡い色合いは見る者の心を奪います。
最後のセクション「III.革命と人々のための芸術」では、ヨーロッパ全土に近代化の波が押し寄せた激動の時代と共に生まれた、19世紀の画家たちの名画18点が展示されています。1789年に勃発したフランス革命は、フランスのみならず全ヨーロッパの近代社会成立の転換点となり、美術にも新たな風を吹かせました。
世紀半ばに隆盛した農民や労働者の生活情景や身近な風景を、理想化せずありのままに描くレアリスム(写実主義)の成果は、マネやドガ、そして1870年代に印象派と呼ばれることになるモネやルノワールの絵画に受け継がれていきます。
ルネサンスから19世紀まで、西洋絵画史500年を彩った巨匠たちの名画が一堂に会する本展。フラ・アンジェリコ、ラファエロ、エル・グレコから、カラヴァッジョ、レンブラント、フェルメール、ルーベンス、そしてマネ、モネ、ルノワール、ドガ、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌまで揃う豪華な展覧会で、西洋絵画の500年を浴びにきてみてはいかがでしょうか。
編集部 高橋
メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年
会場:国立新美術館 企画展示室1E
会期:2022年2月9日(水)~5月30日(月)
時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日 ※ただし5月3日(火・祝)は開館
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://met.exhn.jp/