現在、東京シティビューでは、長きにわたり歴史に名を刻む傑出したマンガ作品を多く世に送り出した楳図かずおの「比類なき芸術性」に焦点を当て、代表作を通じて、気鋭のアーティストらとともに「楳図かずおの世界」を表現する「楳図かずお大美術展」が開催されています。
地球規模の気候変動や自然災害の多発による人新世の到来、AIやロボット工学が暗示するシンギュラリティの予感、人が神の領域に立ち入る遺伝子工学やハイブリッド生命体の誕生・・・。楳図氏の作品に共通するのは、マンガという既存の分野だけでは語りきることができない、先見的な世界観や幻視的なヴィジョンです。本展は、これらを"大美術"として読み解く展覧会となっています。
エントランスにそびえるのは、アート・ユニット「エキソニモ」が『わたしは真悟』をテーマに作ったインスタレーション。本作は、12歳の悟と真鈴の手によって、一介の工業用ロボットが意識を持ち、やがて自らを"真悟"と名付け動き始める物語です。無数のケーブルから聳えるモニターには作中場面が映し出され、会場の外には最も象徴的なモチーフの一つである東京タワーを見ることができます。
見どころの一つとなるのは、1990年代の『14歳』以来27年ぶりの新作となる101点の連作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』。1980年代に描かれた『わたしは真悟』の続編であり、同時に時空を超えたそのパラレル・ビジョン(並行世界)でもあり、制作には4年の期間が費やされたそうです。
マンガと違ってコマ割りはなく、一枚一枚を独立して鑑賞できるため、その生き生きとした筆遣いや、吸い込まれるような色彩の美しさを、間近で堪能することができました。
101点という大掛かりな制作について氏は「新しいことを目指す、ということで、漫画でもあり絵画でもある作品を作りたかった。漫画と絵画の両方の良いところを表現したかったんです」とコメントしています。
アーティスト冨安由真は、『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』の素描が展示されている部屋全体の演出を手掛けるとともに、部屋の中央に小屋のような構造物を制作。小屋には冨安が素描からインスピレーションを受けて選定した家具やオブジェなどが置かれており、光と影による独特な空間が印象的でした。
鴻池朋子は、楳図氏との対話や『14歳』をはじめとした楳図作品と向き合うことを通じ、その根底にある欲求やイメージを探りながら新作を制作。
楳図氏が14歳だとしたらどのような少年であったかを描いた「かずお14歳」をはじめ、『14歳』の終盤に登場する「ゴキンチの先生」の顔をオモリとして作られた、空間を周期運動する振り子、そして『14歳』の作中に語られる言葉を左手で書き写した原稿用紙のドローイングなど、見ごたえ抜群でした。
一人の作家の手によるものとは思えないほど幅広く、深い楳図かずおの世界観。それらは、現代を生きる我々にも強く訴えかけるものがあります。これまの代表作、27年ぶりの新作、そして現代アーティストのインスタレショーションを通して、その重みと圧を感じることができる展覧会でした。
※本展展示内容の一部に、刺激が強いと感じる可能性のある表現が含まれています。あらかじめご了承ください。
編集部 高橋
楳図かずお大美術展
会場:東京シティビュー (東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
会期:2022年1月28日(金)~3月25日(金)
時間:10:00~22:00(入場は21:30まで)
休館日:会期中無休
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://umezz-art.jp/