現在サントリー美術館ではリニューアル・オープン記念展 Ⅱ「日本美術の裏の裏」が開催されています。本展は、生活の中の美の"愉しみ方"に焦点をあて、個性ゆたかなサントリー美術館の収蔵品の中から、日本ならではの美意識に根ざした作品が紹介されています。
日本人は古くから、「美」は生活を彩るものとして、身の回りのあらゆるものを美意識の表現の場としてきました。けれども日本人の生活は大きく変化して、障子や畳、床の間が姿を消し、古文も外国語のように感じる人も少なくありません。会場では、昔の人々の愉しみ方を知り、追体験することで、日本美術をより深く愉しめる"裏ワザ鑑賞"を知ることができます。
第1章は「空間をつくる」。絵を見る時、その色彩や何が描かれているのかなど、中身を見るだけでなく、その絵をどこに置いたらどんな空間ができるかを考えると、より作品を深く楽しむヒントに。
また1枚の屛風の中には≪四季花鳥図屛風≫のように四季が混在していることがありますが、それは1枚の中に、時間も空間も超越したパラダイス的な空間を作り出しているから。展示されている空間もまた襖で区切られ、日本伝統の落ち着いた空間を演出していました。
第2章は、「小をめでる」。「枕草子」に「なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし」という一節があるそうです。つまり、「小さいものは全部かわいい」ということです。そしてここには、「雛道具」という雛人形のための道具がズラリと並ぶのですが、その精巧なこと、種類の多いこと。現代の人形遊びの道具やフィギュアなどでも、これほどのもの・数があるでしょうか。ついつい、一つずつじっくりと眺めてしまいました。
続く第3章は「心でえがく」。今でも「ヘタウマ」などという言葉がありますが、日本では昔から巧拙に関係なく、心に響くような絵が尊ばれてきたようです。ここではいくつかの絵草紙が紹介されていますが、写真は「かるかや」という、世の無常を感じた男が妻子を残して出家してしまうという切ないお話です。
やきものを焼く際に炎が偶然つくり出す多彩な表情、その「景色」は、一つのやきものをどの方向、どの角度から見るかによって全く違います。
第4章の「景色をさがす」では、やきものを様々な角度から見ることによって様々な「景色」を発見し、自分の好きな「景色」を見つけよう、という試みです。そう促されてやきものを色々な角度から見てみると、見える「景色」の違いに改めて驚かされます。
そして第5章は「和歌でわかる」。「生き物はみんなみんな歌を詠む」とは『古今和歌集』の序文の言葉だそうです。かつての日本人の生活の中には和歌が溢れており、和歌がもとになった美術品や工芸品は、皆がその和歌を知っていたからこそ楽しめたのでした。
この章では、和歌が分かればもっと楽しめる作品をご紹介しています。写真の小袖(現代の着物の原型となった袖の小さな衣装)には長寿の象徴である橘の刺繍、万年生きるといわれる亀を表す亀甲模様に、さまざまな文字がちりばめられ、長寿を願う「君が代」の一節があらわされているのだそうです。
最後の第6章は「風景にはいる」。風景画を単に外から見るのではなく、中に描かれた「点景人物」を案内人にして、絵の中に入ったつもりで見てみようという試み。風景に入った目で見ると、せせらぎの音や木々の香りまで感じられるようです。
こちらの≪隅田川図屛風≫では、間近にスカイツリーのそびえる現代の隅田川からタイムスリップして、川岸の桜を楽しむ人々や船で川を渡る人々の間に入って行けるのです。
古来日本の暮らしを彩ってきた様々な美術品・工芸品を、古くからある、けれども現代の私たちにとっては新しい視点で見ることで、豊かなファンタジーの世界に遊ぶことができる、そんな不思議な展覧会です。
タイトルにもなっている「裏」には、見えない部分だけでなく、奥深く、隠された内部という意味があります。教科書では教えてくれない面白さの一端、覗きに来てみてはいかがでしょうか?
編集部 月島
サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏
会場:サントリー美術館
会期:2020年9月30日(水)~2020年11月29日(日)※会期中展示替えあり
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
※11月2日(月)、22日(日)は20:00まで開館
休館日:火曜日
※11月3日、24日は18時まで開館
※本展ではshopxcafeも休館日は休業
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2020_2/