ブックラウンジやギャラリー、スタジオなどが入った新しいアートスペース「ANB Tokyo」が2020年六本木に誕生。今回は秋のグランドオープンに向けて準備中の同ビルに、一足先にお邪魔しました。
ANB Tokyoは元々あったビルを一棟リノベーションすることで、複合性を活かした新しい化学反応を起こすスペースへと生まれ変わらせた場所。1階にはアルコールなしのカクテルと共に豊かな時間が楽しめるバー「0%」があり、その上にラウンジ、ギャラリー、キッチン、スタジオが展開されています。
案内してくださったのは、ANB Tokyoのディレクターを務める山峰潤也さん。設立秘話や、六本木にこの空間があることの面白さや難しさを語ってくださいました。
アーティストの創作活動を支援し、アートに関わる多くの方々とイベントや事業を実践する場、ANB Tokyo。そのはじまりは、株式会社アカツキで「アソビル」などのリアルエンターテインメント事業を手がけてきた現CEO香田哲朗さんが、アートの持つ"人を引きつける力"の大きさへの興味から始まったプロジェクト。
そこで色々な人にアドバイスをもらったり、ヒアリングしたりする中で山峰さんと出会い、アートバーゼル香港を一緒に見ながら意気投合し、香田さんが代表理事を務める一般財団法人東京アートアクセラレーションが同ビルの運営などを目的に設立されたそうです。
財団のメンバー同士で、アーティストが作品を生み出し、展覧会など発表の場を通して伝え、アートの浸透した社会がそれを支えていく...そういった新しいエコシステムの構築を目指し、アートと社会のために何かできないかと日ごろから議論しているとのこと。
同財団の共同代表となった山峰さんは、その取り組みについて「アートに関する問題が、世の中に広くシェアされていくことが大事なんです。ANB Tokyoにはアート関係者だけでなく、六本木に集まる様々なジャンルのクリエイター、企業人が出入りし、アートを軸にしたプロジェクトの可能性を共有してくれたらと思っています。一人で考えるのではなく、多くの人と考えられる場所。この空間は、アーティストを育成するプラットフォームでありながら、いわゆるアート業界の外との関係性を積み上げる場でもあるんです」と説明してくださいました。
最初に見学させていただいたのは、スタジオのある6階と7階。アート作品のビューイングや展示プランの実験、作品撮影など、幅広い用途で活用できる場所です。ふと窓の外に目をやると、そこには六本木らしさを感じさせる、新しいビルと古いビルが立ち並ぶ風景が見えました。
「六本木はアーバニズムによる変化と、元々あった租界的なエネルギーによるアンダーグラウンドさが入り混じった地点なんです。また、アートも地域や個人をとりまく社会や文化、思想を世界に示す多様性の場でありつつも、グローバリゼーションに伴う均質化という性質も併せ持っています」と山峰さん。
「だから、固有性や土着性みたいなものとアーバニズムやグローバリズムが拮抗といった、アート、六本木、それぞれが持つ両義性が交錯して、ANB Tokyoは場所的にもタイミング的にも面白い。アクセスがいいだけではなく、変化が生まれる場所なんです」
5階にあるのはキッチンとカウンター。「食」を入口にANB Tokyoに関わる様々な人たちの接点を作り出し、アートへの理解を深めてもらう場として使われるそうです。とても落ち着いた空間で、じっくりと話し合うことができるような素敵な空間でした。
4階にはコンクリートの躯体を活かしたインスタレーションやライブイベントなど多目的に利用できるガレージのようなスペースが、3階にはキュレーターやアーティストによる個展やグループ展、イベント会場として利用できるギャラリーが続きます。
これまで美術館などで数々の展覧会を手掛けてきた山峰さんですが、ANB Tokyoでのディレクターの役割は「美術館で働いていた時とは全然違います」とのこと。「ANBはオープンで流動性をもった場所であり、見る人や関わる人にとって魅力的な場所にしていきたいと思っています。そのためには、場所や建物の力ももちろん大きいですが、それだけでは難しい。マネージメントする人には、開かれた場所ならではのいい部分を存分に取り入るキャパシティと、それをまとめて形にしていくファシリテーションや統率力が必要なんだと実感しています。
オープンさとクオリティの両立。それはクリエーションの理想形ですが、失敗するとぼやぼやしたものになってしまうし、雑多になるリスクが高いんです。何を取り合わせるか、目利きがないと面白いものは生まれません。難しいことに挑戦している感覚がありますね」
六本木に生まれたアートと社会をつなぐ新しい空間、ANB Tokyo。建物の名前の由来は、既存の概念とは異なる何かを示す"Alternative"と、多種多様なものを受け入れる"Box"からきています。そしてその箱の中に、無数の物語="Narrative"が詰まっていくようにという思いが込められているのだとか。この空間でどんな物語が紡がれていくのか。今から楽しみです。
編集部 高橋
ANB Tokyo
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://taa-fdn.org/