2019年11月より改修工事のためにクローズしていたサントリー美術館がリニューアル・オープン。その記念展第1弾「ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」では、美術館の開館以来の基本理念「生活の中の美」を具現する、古より日本人の生活を彩ってきた華やかな優品の数々に出会えます。
エントランスは、サントリー美術館を設計した隈研吾建築都市設計事務所監修のもと空間デザインが全面リニューアル。サントリーの企業理念である「水と生きる」を想起させる受付カウンターの設置、新しいデザインの制服など、入口に立っただけで、これまでとはちょっぴり違ったサントリー美術館の雰囲気に期待が高まります。
展示室にはいってすぐのところに飾られているのは《遙カノ景 〈空へ〉》と題された、陶芸家・深見陶治によるまっすぐに天を指す剣を象った作品。とても静かで力強く清廉で、タイトルの通り空へ昇って行くパワーを感じました。
第一章では化粧品などを入れる蒔絵の手箱、香箱、鏡台などが並びます。そのデザインの美しさ、細工の見事さ、意匠を凝らしたぜいたくさ。日本人の暮らしの中には、これだけの美があったのかと感嘆させられます。
写真のような「手箱」は、化粧道具や香道具、筆記用具など身の回りのものを入れて手近に置くほか、神宝として神にも捧げられたものもあったそうです。
数々の蒔絵の櫛や笄とともに、その「デザインブック」まで残されています。江戸時代の人々も、現在の私たちが雑誌やインターネットで小物の写真を見て楽しむように、こんな図録を見て楽しんでいたのでしょうか。《蒔絵大全》の作者である大岡春川は大阪の画家で、宮廷関係の画事も手がけていました。
古くから、「装い」は女性にとどまらず武将たちにとっても常に大切なものでした。丸に「豊」字を切透かした金銅版がついている《朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足》は、豊臣秀次所用の伝承を持つ具足。
現代美術家の野口哲哉は、この秀次の伝来や、泰平時代のものとは思えない実戦痕などに着目し、《WHO ARE YOU〜木下利房と仮定〜》(2020)を制作。鎧の姿がより生き生きと伝わってきました。
誰が袖図屛風とは、衣桁などに多くの衣類を掛けた様子を描いた作品群で、江戸時代初期に流行したと考えられています。基本的に人物は登場せず、衣装や遊戯具など、置かれた持ち物によって、その持ち主の面影を偲ぶ趣向になっています。
「誰が袖」は「これは誰の衣装なのか」という意味で、『古今和歌集』に収められた「色よりも 香りこそあはれと思ほゆれ 誰が袖ふれし 宿の梅ぞも」(梅は色彩よりも香りの方がしみじみと趣深く思われる。この宿の梅はいったい誰が袖をふれて、その移り香を残したのだろうか)という歌に由来しています。
こちらは、そんな《誰が袖図屛風》にインスピレーションを受けて作られた《熊本ものがたりの屛風 女性のハレの日金屛風》。2016年4月の熊本地震により廃業することとなった森本襖表具材料店に残された屏風の材料を使い、地震で被害にあった熊本の人たちの思い出の「ものがたり」を作品にしたものです。
六本木未来会議のクリエイターインタビューでは、本作品の作家、山本太郎のインタビューを8月12日(水)に公開予定。"ニッポン画"の起源をさぐっていきます。
現代アートとサントリー美術館のコレクションをクロスさせた特別展示となった本展。現代の私たちは、昔のように生活の中に美を取り入れているだろうかと考えさせられます。生活の中に美を見出すことの心の豊かさ、そして大切さを思い出させてくれる展覧会でした。
編集部 月島
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サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展I
ART in LIFE, LIFE and BEAUTY
会場:サントリー美術館(六本木・東京ミッドタウン ガレリア3階)
会期:2020年7月22日(水)~2020年9月13日(日)※会期中展示替えあり
時間:10:00~18:00
休館日:火曜日(ただし9月8日は開館)
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2020_1/