現在、国立新美術館では「DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに」が開催されています。文化庁が実施している「新進芸術家海外研修制度(在研)」の美術分野における成果発表の機会として1998年から開催されている「DOMANI・明日展」。第22回目を迎えた今回の展覧会は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年の冒頭にあたるため、国が展開する「日本博2020」のプログラムに参画する特別版となります。
石内都氏によるこちらの「Scars」は、本展の着想のきっかけにもなっているそうです。普段、まじまじと見ることがはばかられる人の傷跡ですが、展示として詳細に見ることで、再生しようとする力の大きさを改めて感じさせられます。傷跡は「生かされている証」という石内氏のメッセージも作品の印象をより濃くしています。
石内氏の作品と対面する形で並ぶ米田知子氏の作品は、かつて戦場だった場所の現在の姿を写しています。これらの土地には、人の傷のように跡が残っているわけではないものの、そこで起きた事は記憶や歴史として確かに刻まれています。作品のタイトルを見る前と後で、写真に写る景色の見え方が大きく変わることでしょう。両氏の作品は一見、対象的でありながら、どちらも傷を乗り越えて再生した姿を写しています。
この壮大なインスタレーションは、宮永愛子氏の「景色のはじまり」。1枚の葉の葉脈が地図に見えたことがきっかけで、金木犀の葉を1枚ずつ繋げて一つの大きな新しい地図にしています。このサイズにするためには、合計で12万枚を要したそうです。
2010年に本作の制作を始めたのちに東日本大震災が発生。その後、多くの作家が被災地に向かう中で「被災地に出向かないことに揺らぐ自分もいた」と、制作を続けることに悩みながらも、周囲の後押しを受けて完成に至ったそう。そんな本作について宮永氏は「また動きだそうとした時の心のよりどころになるような作品にしたかった」と思いを込めています。
展覧会の最後に並ぶ畠山直哉氏の作品は、樹木を中心に据え、東日本大震災の被害を受けた土地を撮影したもの。生育条件が悪くなると実をつけた枝ごと飛んでいき、適した場所へと移っていくカエデの木になぞらえて「去る者もいるが、樹木自身は大地に根を張り動かない、樹木とは『われわれ』の暮らす集落のようなもの」と畠山氏は語っています。そうした樹木の世界と、震災という大きな変化を受けた人間の世界が交錯する風景となっています。
このほかにも、原爆が投下された長崎の金毘羅山をモチーフにした森淳一氏による彫刻作品「山影」や、変わりゆく自然環境の中で生きる昆虫たちを写した栗林慧氏と栗林隆氏の親子による共作など、さまざまな視点や方法で、展覧会のサブタイトルである「傷ついた風景のむこう」が表現されています。
作家たちは、自身や日本が受けた傷を通して、どのように明日を見ているのか、展覧会へ訪れて、その考えに触れてみては? また、本展では展覧会開催中に、ダンスパフォーマンスの披露や、参加作家を招いたトークイベントが開催予定。興味のある方は、公式サイトをチェックしてみてください。
編集部 森
DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2020年1月11日(土)~2月16日(日)
休館日:毎週火曜日
※ただし、2月11日(火・祝)は開館、2月12日(水)は休館
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,000円、大学生500円、高校生・18歳未満(学生証または年齢のわかるものが必要)は入場無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://domani-ten.com/