2019年12月4日(水)から12月8日(日)にかけて、国立新美術館にて「ここから4 ―障害・表現・共生を考える5日間」が開催されました。今回で4度目を迎えた「ここから」展は、2016年秋に行われた国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」で、障害者のアートやスポーツ義足などのデザインに関する展覧会としてスタート。以来、共生社会や文化の多様性について関心を深めることを目標に毎年開催されています。
本展では、「いきる-共に」「ふれる-世界と」「つながる-記憶と」「あつまる-みんなが」「ひろげる-可能性を」という5つのキーワードごとに会場のエリアを分けて作品を展示。それぞれのエリアには、障害の有無に関わらず選ばれた22組の作家の作品が、ジャンルを超えて並びました。
こちらは、ライフサポートセンター「しょうぶ学園」のメンバーによるプロジェクト「nui project(ヌイ・プロジェクト)」から生まれた作品です。気の赴くまま、さまざまな素材を既製品のシャツに縫い付けていったという作品たちは、どれも唯一無二の存在感を放っていました。学園内には布のほか、木工、陶芸、和紙の工房などがあり、毎年多くの観光客が鹿児島県にある学園施設を訪れるほどの人気だそうです。
覆面プロレスラーをモデルにしたイラストに、独特なデザインのテキストを組み合わせた作品「覆面とロック(レコジャケ・シリーズ)」。これらは全て、イラスト担当の吉川健司氏とテキスト担当の秋本和久氏、そして二人が所属する施設のスタッフである石平裕一氏からなるユニット「マスカラ・コントラ・マスカラ」が手掛けています。
吉川氏と秋本氏は互いの意思疎通を図ることが難しいため、石平氏が二人の橋渡し役となって製作しているとのこと。3人の誰が欠けても完成しない、まさに本展のテーマの一つである「共生」から生まれた作品です。
吉村和真氏、藤澤和子氏、都留泰作氏による「LLマンガ」プロジェクトは、知的障害のある方や外国人などに向けて、わかりやすい表現でマンガを描くというもの。この「LL」とは、スウェーデン語で「やさしく読める」という意味の単語の略です。実際の表現方法については、"単純なコマ割りを心がける""ナレーションの使用を避ける"など、明確なガイドラインが定められています。
一般的な表現の漫画とガイドラインに沿った表現の漫画が並べられており、双方を見比べることで読み手が理解しづらい点を感じとることができます。ただ読みやすいというだけではなく、コミュニケーションに対する理解を深めるツールとしての可能性も感じられました。
本展を通じて感じたのは、障害を超えて表現しようとする強い意志でした。どの作品も、障害という壁に対して、視点を変え、方法を変え、工夫を凝らし、なんとか相手に届けようとする気持ちに溢れたものばかり。こうした活動が続けられていることで、より良い共生社会が形成され、アートはそれをポジティブに発信できる装置でもあるのだと感じました。
今後もテクノロジーの進歩により、障害を超える方法は増えていくことでしょう。それとともに、次はどんなアートが生み出されるのか、この先の展開が気になる展覧会でした。
編集部 森
ここから4 ― 障害・表現・共生を考える5日間
会場:国立新美術館 1階展示室1A
会期:2019年12月4日(水)~12月8日(日)※終了しました
主催:文化庁
共催:国立新美術館
制作:アートインプレッション
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.kokokara-ten.jp/