国立新美術館では2019年11月11日(月)まで国内外で活躍する日本の現代美術家6名によるグループ展「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」が開催されています。
本展には「文学」をテーマにした映像や写真を用いたインスタレーション、立体作品などが並んでいますが、これらは一般に芸術ジャンル上で分類される文学、つまり本の形態をとるものではありません。来場者はその空間にある作品を通して、そこに姿を現す時代や場所、登場人物を想像しながら、それぞれに潜む物語を手繰っていきます。
既存のイメージやオブジェクトを起点にしたインスタレーションやパフォーマンスを手掛ける田村友一郎氏が部屋全体を使って表現したのは、実際には存在しないものを見たと認識してしまう「空目」と「上方からの視点」という二つの視覚。自分が「空にある目」のつもりで作品をのぞき込むと、思わぬ発見があるかもしれません。
小説も出版しているミギヤフトシ氏の部屋にあるのは、どこかの風景を写した26点の写真と、5点の映像。そして、部屋には誰かの話し声が小さく流れています。沖縄で少年時代を過ごした「僕」が、ハーフの双子の子どもと仲良くなり、だが遠くに引っ越してしまい・・・。誰かの人生をなぞっているかのような構成は、まるで部屋全部で1本の映画を見ているかのようです。
本展のポスターにも使われている、炎をともした人差し指の写真は小林エリカ氏の作品。このほかにも蛍光グリーンの大きな$マークの彫刻や、白いワンピースを着た女の子など、薄暗い部屋に作品が並びます。これらは、原子爆弾の材料になるウランと、オリンピックの聖火をめぐっておきた、戦争中のできごとを指し示しています。
主役とわき役、表と裏が逆転するのは豊嶋康子氏の「棚」。本来、物を置くための棚は棚板のまっすぐさ、安定感が重視されますが、ここでは棚板でなく、その下にある細工にばかり目がいってしまいます。棚が棚であるために必要なこととは?綺麗な棚とは? ものの見方を考えさせられる作品でした。
映像作品「チンビン・ウェスタン『家族の表象』」。山城知佳子氏は、沖縄のお菓子の「チンビン」と、アメリカの西部劇「ウェスタン」をくっつけた名前の映画を作りました。沖縄で暮らす二つの家族を描いた本作。約30分間の上映なので、最初から最後まで見たい方は時間に余裕を持っていらしてください。
最後の部屋には、北島敬三氏が撮影した写真の数々が並びます。
「EASTERN EUROPE 1983-1984」は氏が、旧西ドイツの西ベルリンを拠点に東欧の国々を取材した際に、モノクロフィルムで撮影されたシリーズ。社会主義の国で暮らす人々の眼差しが、我々に何かを強く訴えてきます。
「USSR1991」は約150日にかけて断片的に旧ソビエト連邦社会主義共和国の15の共和国を取材したものです。背景にある建物や調度品、それぞれの衣服から個々人の社会的な立場を知ることができます。
「UNTITLED RECORDS」では多くの人が普段撮るような、人物が笑顔でピースを向けた写真などはなく、崩れかけた小屋や、駐車場の片隅など人気のない風景が並びます。だからこそ、それを建てた人、利用していた人の姿を想像することができました。1枚1枚、どんな物語が宿っているのか思い浮かべてみてはいかがでしょうか?
読書や歌、映画などで文学に触れている私たちですが、現代美術にも文学は潜んでいます。難しく考えず美術館に足を踏み入れれば、文学の世界が広がっています。開催期間中にはアーティストトーク、ギャラリートークも行われますので、スケジュールをチェックしてぜひ参加してみてください。
また、10月9日(水)は本展を舞台に、コラムニストの辛酸なめ子さんを先生に迎えた「旅する美術教室」レポートが公開されます。あわせてお楽しみください。
編集部 高橋
話しているのは誰? 現代美術に潜む文学
会場:国立新美術館 企画展示室1E
会期:2019年8月28日(水)~11月11日(月)
休館日:毎週火曜日
※ただし、10月22日(火・祝)は開館、10月23日(水)は休館
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は、8・9月は21:00まで、10・11月は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
観覧料:1,000円(一般)、500円(大学生)
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.nact.jp/exhibition_special/2019/gendai2019/