現在PERROTIN東京では、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、エミリー・メイ・スミスの個展が開催されています。スミス氏は20年に渡り絵を描き続けていますが、彼女の個展は今回が日本初開催となります。
油絵具の特性を活用し、鮮やかな色合いから、ぼんやりとした柔らかな表現を巧みに操るスミス氏。彼女の作品はニューヨークで有名な現代美術が並ぶことで知られるホイットニー美術館に所蔵されています。
彼女が多く作品のモチーフにするのは、家事労働の象徴でもあり、ディズニー映画「ファンタジア」にも登場する"ほうき"。本展にもほうきの作品が何点か展示されています。
ほうきは物語の中で、自分をこき使う師匠気取りの魔法使いに反逆する道具として登場します。スミス氏は「誰かに支配されそうになった時、強い力を発揮したのは、身分の低いこの"ほうき"なのです」と、モチーフにかける思いを語ります。
彼女の昨今における創作活動は、二手に分かれているそうです。一方は、クィア問題、人種差別、植民地化問題など、アイデンティティについて取り上げた作品。もう一方はアートとは何か、もしくは何になり得るかを追求することに基づいた作品です。
大きなキャンバスを、ガーターベルトをつけた女性の脚に見立てた、一見セクシーのみが際立つこの作品も、よくよく近付いて見ると、ストッキングの柄に小麦を貪り食べる目つきの鋭いネズミが描かれていたりと、セクシュアリティや暴力問題に切り込む作品になっていました。
また、彼女の作品には時として現れる"口"を除き、具体的な人間の顔のパーツが登場することはほぼありません。こちらの「Temptation Island」も、歯のような白い四角が直列に並んでいるのみです。
その中で、大きくくびれた砂時計に絡みつく蛇の表情は、何かを企んでいるような、そんな顔をしています。細かい鱗の色づかいや、ガラスの奥に写る蛇の身体のラインに思わず見入ってしまいました。
伝統的な西洋絵画に則り、社会への皮肉な眼差しをポジティブな表現へと転化するペインター、エミリー・メイ・スミス。作品の美しさだけでない、強いメッセージを感じに来てみてはいかがでしょうか?
編集部 高橋
Djinns,things,places
会場:PERROTIN東京
会期:2019年8月28日(水)~11月9日(土)
開館時間:11:00~19:00
休館日:日曜、月曜、祝日
観覧料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.perrotin.com/