現在、森美術館ではベルリンを拠点にグローバルな活躍を続ける塩田千春の過去最大規模の個展である「塩田千春展:魂がふるえる」が開催されています。
記憶、不安、夢、沈黙など、かたちの無いものを表現したパフォーマンスやインスタレーションで知られる塩田氏。個人的な体験を出発点にしながらも、その作品はアイデンティティ、境界、存在といった普遍的な概念を問うことで世界の幅広い人々を惹きつけてきました。
美術館の入り口で来場者を迎えてくれるのは、高さ11メートルの天井から吊られた65艘の舟のインスタレーション「どこへ向かって」。先の見えない未来や人生などを連想させる舟が、静かに来場者を展覧会という旅へ誘います。
彼女の代表的なシリーズ作品と言えば、黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせたダイナミックなインスタレーションですが、これらも本展の展示に伴い空間に合わせて改めて糸を張り巡らし直したそうです。写真1枚目の「不確かな旅」では赤糸をなんと280㎞も使用しているのだとか。
大型インスタレーションを中心に、立体作品、パフォーマンス映像、写真、ドローイング、舞台美術の関連資料などを加え、25年にわたる活動を網羅的に体験できる本展ですが、その中にはこんなものまで。
こちらは氏が5歳の時に描いた「蝶のとまっているひまわり」。自身の名前が鏡文字になっている一方で、画面はダイナミックな花と蝶に埋め尽くされています。「そうか、私は文字を書く前に絵を描いていたのか。当たり前のことなのに忘れていた」という氏のメッセージが、心に響きます。
新作の「外在化された身体」では、自身の身体のパーツが登場しますが、これは近年の氏に見える作品の特徴なのだとか。実は本展の開催が決まったころに、12年前の癌の再発が発覚したという氏。身体の部位が摘出され、抗がん剤治療を受けるなか、魂が置き去りにされていると感じた経験が本作には宿っています。
「ここまで死と寄り添って構想を続けなくてはいけない展覧会は、いまだかつてありませんでした。手術から始まり、ベルトコンベアに載るように、癌治療が始まって...。私は個人でなく、一患者として扱われ、人間の不条理を感じさせられました。そしてその中で、その心を表現するには作品を創るしかなかったのです」と氏は語ります。
副題の「魂がふるえる」には、言葉にならない感情によって震えている心の動きを伝えたいという作家の思いが込められています。「不在のなかの存在」を一貫して追究してきた塩田氏の集大成となる本展を通して、生きることの意味や人生の旅路、魂の機微を感じに来てみてはいかがでしょうか?
編集部 高橋
塩田千春展:魂がふるえる
会場:森美術館
会期:2019年6月20日(木)~10月27日(日)
開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
※ただし10月22日(火)は22:00まで(最終入館 21:30)
観覧料:一般1,800円、学生(高校・大学生)1,200円、子供(4歳~中学生)600円、シニア(65歳以上)1,500円
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/index.html