国立新美術館では9月2日(月)まで現代のフランスを代表する作家、クリスチャン・ボルタンスキーの回顧展「クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime」が開催されています。
本展では、50年にわたるボルタンスキー氏の様々な試みを振り返ると同時に、「空間のアーティスト」と自負する作家自身が展覧会場に合わせて手掛けたインスタレーションを、隅々まで堪能することができます。
会場内は全体的に暗く、とても静かで、来場者は集中して作品と向き合うことができます。入ってすぐの部屋で、壁の高い位置に展示されているのは「コート」。小さな電球で囲まれたこのコートは、イエス・キリストの磔刑を思い起こさせます。この作品の下には、様々な"人"の写真が並び、それがさらに厳粛な礼拝堂のようなイメージを沸き起こさせていました。
氏も「教会を訪れた時のように、自分を解放して心を委ねて見てください。この空間に身を任せて作品を感じて欲しいです」と、本展の見方についてコメントを寄せています。
次の部屋に進むには、吊り下げられた紐でできたカーテンを通り抜けなくてはなりません。紐で形作られたスクリーンには、7歳から65歳までのボルタンスキーのイメージが投影されています。
天井に届いてしまいそうなこの作品は、「死んだスイス人の資料」。箱の前面には氏が『ヴァレ通信』の死亡告知欄から切り取ったスイス人の写真が貼られています。この金属製の箱はもともとビスケット缶で、氏にとってはミニマリズム的なオブジェであると同時に骨壺を連想させるものでもあります。
ナチス占領時代に苦痛を強いられていたユダヤ系フランス人を父に持つ氏は、戦争やホロコーストについての話を聞き、それらは作品に大きく影響を与えています。
「モニュメント」では、過去の作品で用いられた肖像写真を再利用し、祭壇のように並べました。電球によって照らされた子どもの写真は、神聖でありながら、どこか物悲しい雰囲気を醸し出しています。
暗闇をうすぼんやりと照らす「黄昏」。この作品は2015年にサン・パウロで初めて制作されました。本展では、電球が毎日3つずつ消え、会期最終日にはすべての電球が消えるのだとか。段階的に消えていく電球は、人生において死が必ず訪れるものであることを示しています。
集団や個人の記憶、宗教や死を主題とした作品を世界で発表してきたボルタンスキー氏。「私の作品は問題を提起するものであって、答えを出すものではありません。私の作品をきっかけに、皆様自身で何かを感じ、問いてもらいたいです」。
都会の喧騒を離れ、作品を通して生まれた疑問に向かい合いに来てみてはいかがでしょうか?
編集部 高橋
クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2019年6月12日(水)~9月2日(月)
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は、21:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜
観覧料:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円、中学生以下無料
展覧会ホームページ(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://boltanski2019.exhibit.jp