現在TOTOギャラリー・間では、状況に対して確かな観察眼を持ち、それを情緒豊かな物語として建築で実現することができる建築家・中山英之氏の個展「中山英之展 , and then」が開催されています。
この展覧会では、中山氏の建築についての6本のショートフィルムを、その建築の施主(建物の持ち主である発注者)や、そこで仕事をしているデザイナーなどそれぞれ異なる人々が映画監督として制作。
「過去に建ち、建築家の知らない時間を過ごしてきた5つの建物たちを映した、建築のそれから/, and thenを眺める小さな上映会」として、「TOTOギャラリー・間」を「CINE間(シネマ)」というミニシアターに見立てて4階で上映を行い、3階ではそれぞれの建築にまつわる模型やスケッチ、インスピレーションとなった本などを展示しています。
「勉強もしなければ本も読まず、美術も見ない。映画にも行かず、好きな音楽もないような高校生時代を過ごしていたんです」と中山氏。そんなある日、なんとなく訪れたザハ・ハディッドの建築展で雷に打たれたような衝撃を受けて、建築への興味がひらかれたそうです。これをきっかけに、建築そのものだけではなく、哲学や映画、音楽など、建築家の周りのさまざまな文化や芸術の領域へとどんどん興味が広がっていきました。「私にとって建築に興味をいだいたことで、新しく世界がはじまったという感覚でした」と、現在に至る経緯を語りました。
中山氏は、今回展覧会を企画することになって、自身が建築のことが好きになったことで世界がはじまったように、自分が影響を受けた映画などを示すことによって、今建築に興味を持っている人、あるいは持っていない人の世界を広げる役目を果たせないかと考えました。「TOTOギャラリー・間」を「CINE間(シネマ)」にするという駄洒落のようなネーミングを思いついたのもその頃だそうです。
フィルムのうちの一つ「岡田邸」は、中山氏が「精神的パトロン」と明言する親友である施主が自ら撮った作品です。音楽は、中山氏がファンである空間現代というバンドが担当しました。「岡田邸」は中山氏の事務所の二つ目の作品で、不思議な形が魅力の家です。
「弦と弧」では、正面だけでなく、両横のスクリーンにも投影されます。本作では広角に撮れるカメラを吹き抜けに設置し、10層が複雑に重なり合った住居兼仕事場の様子を朝から晩まで撮影。見ているだけで迷子になってしまいそうな建物の中を、じっくりと堪能することができました。
「mitosaya薬草園蒸留所」は、薬草園だった建物が使われなくなっていたのを、蒸留所として生まれ変わらせたものです。蒸留所で行われている作業も映像の中に収められているので、そちらも必見です。
このほかにも「2004」「弦と弧」「かみのいし」などの映像や模型を通して、中山氏がその建築と向き合ってきた時間、そして施主が中山氏の建築と向き合ってきた時間を感じ取ることができます。建築家のユニークな発想、そしてそれを実現する力に、素直な感動を覚える時間を過ごすことができる展覧会でした。
また会期中、ギャラリートーク「a night in CINE-MA」と銘打って、様々な建築家や映画監督、それぞれの建築に関する人々などを招き、トークや映画上映会などのイベントが企画されています。この機会にぜひ参加してみてはいかがでしょうか?(事前申込制/入場無料)
編集部 月島
中山英之展 , and then
会場:TOTOギャラリー・間
会期:2019年5月23日(木)~8月4日(日)
時間:11:00~18:00
観覧料:無料
休館日:月曜・祝日
※「中山英之展 , and then」開催に伴い、セラトレーディング 東京ショールームにおいて、中山英之氏の建築映像作品の写真パネルやイラスト原画などを展示しております。
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://jp.toto.com/gallerma