2019年4月9日(火)から6月16日(日)まで、六本木ヒルズ森タワー52階の森アーツセンターギャラリーでは「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」が開催されています。
日本では、ムーミンといえばまずTVのアニメーションで人気を博しましたが、その出発点は作者トーベ・ヤンソンが自分で挿絵もつけた「小さなトロールと大きな洪水」という小説でした。この展覧会では、フィンランド・タンペレ市にある「ムーミン美術館」とムーミンキャラクターズ社所蔵の小説、絵本、カードやカレンダーの原画、広告や人形、またトーベが雑誌に描いていたムーミン以外の挿絵など、約500点もの展示品でムーミンの作品世界と、作者トーベの人物と時代、その思いが明らかにされています。
会場に入ると、まずその壁じゅうに掛けられた原画の数に圧倒されます。小説の挿絵なので、1つ1つの絵は小さなものが多いですが、その独特な手描きの絵の優しさ、温かさに、ムーミンのファンが老若男女、世界中にいることに納得させられます。展示はムーミンの9つの小説が出版された順番に、それぞれの挿絵の原画が紹介されています。
ムーミンの最初の頃の作品には冒険のストーリーが多く、恐怖の陰も感じられます。それはトーベが第二次世界大戦を経験した影響もあると考えられています。しかし、第3作の「たのしいムーミン一家」ではお話のトーンはずっと明るくなり、この本はフィンランド以外でも人気を博して、世界で38ヶ国語に翻訳されたそうです。
ムーミンの小説が最後に書かれたのは1970年に出版された「ムーミン谷の11月」ですが、これはトーベの母が亡くなった直後に書かれたせいか、少し悲しいトーンになっています。友人たちがムーミン一家を訪ねて来るのですが、一家は引越してしまっていて誰もおらず、友人たちはムーミン一家なしでどうしていくのか、というお話です。けれども、お話の最後は希望のあるものになっています。
展覧会の開催前日にはムーミン美術館のタイナ・ムッリィハルエ館長とヴィルピ・ニッカリ学芸員、ムーミン本人(!)が来場してムーミンの世界やトーベについて、そして美術館についてお話してくださいました。トーベは作家であり、画家であり、イラストレーターで、フィンランドの人々に深く愛され、尊敬されています。トーベは自然、特に海が大好きで、また踊ること、お酒を飲むことも大好きだったのだとか。
本展ではムーミン以外の、雑誌に掲載された挿絵なども展示されていますが、その中には戦争を批判する風刺的な絵も含まれていて、作家の知性と勇気、戦争を憎む気持ちが表れています。そうした彼女の思いが、後の幸福で、様々な異なるキャラクターたちが平和に共存し楽しさも恐怖も分かち合って暮らしているムーミン谷の創造につながったようです。ごく初期のムーミンらしきスケッチや、その後のムーミンを見ていくと、ムーミンの姿が少しずつ変化していることがわかります。
またトーベは日本を訪れたことがあり、本展ではトーベと日本のかかわりにも注目しています。最後の章では2019年の日本フィンランド外交関係樹立100周年を記念して、トーベ作品と浮世絵を並べて紹介するほか、日本滞在時に描いたスケッチ、翻訳者との交流を示す資料なども展示されています。
フィンランドのムーミン美術館には、約2,000点の原画やその他の絵があり、物語を聴いたり、アニメーションを見たり、その他にも体験型の展示もあるそうです。そこではきっと、この美しく豊かな世界が生み出された秘密に触れることができるのではないでしょうか。
本展は、その中の一部を通してフィンランドの風を感じることのできる、すてきな展覧会でした。
編集部 月島
「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
会期:2019年4月9日(火)~2019年6月16日(日)
時間:10:00~20:00
会期中無休
※火曜は17:00まで
※最終入館は閉館の30分前まで
入観料:一般 1,800円、中学生・高校生 1,400円、4歳~小学生 800円
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://moomin-art.jp/