世界で注目を集めるデザインやアートのイベントをピックアップしてお届けするWorld Reportシリーズをスタートします。
第1弾としてピックアップするのは、開催間近の「ミラノデザインウィーク」。毎年4月にイタリア・ミラノで行われているこのイベントは、世界最大の国際家具見本市「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」と、ミラノ市内(フォーリサローネ)で実施される、2,000を超える企業やデザイナーによる展示が行われるイベントの総称です。日本ではミラノサローネ国際家具見本市を「ミラノサローネ」と省略して呼んでいることも多いのですが、ミラノデザインウィーク全体をさして「ミラノサローネ」と認識している人もまだまだ多いようです。
まずは、ミラノデザインウィークの根幹をなす、「ミラノサローネ国際家具見本市(以下「サローネ」)」について、2019年の見どころを紹介します。
今年はレオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年
2019年で58回目を迎えるサローネですが、今回は、20万5,000㎡を超える展示スペースに2,300以上の企業やデザイナーが出展します。展示スペースの大きさがピンとこないかもしれないのですが、例えてみると、東京ドームの建築面積の約7個分、ビックサイトの愛称で知られている東京国際展示場の総展示面積の約2.1倍。相当大きなスペースであることがわかります。会場となるローフィエラミラノはミラノの中心街から地下鉄では約25分。車で約30分程度で到着します。サローネの会場は通称、「フィエラミラノ」とか「本会場」と呼ばれます。
フィエラだけでも見どころ満載なので、紹介がとても大変なのですが、まず着目したいのは、なんといっても2019年が「レオナルド・ダ・ヴィンチ 没後500年」の記念すべき年であることでしょう。レオナルドは、1482年にフィレンツェからミラノに移住し、それから20年以上にわたり、15世紀から16世紀にミラノを統治していたスフォルツァ家の当主、ルドヴィーコ・スフォルツァの元で、芸術家、エンジニア、科学者として従事し、数々の功績を残しました。ミラノのDNAともいえるクリエイティビティを生涯にわたって追及し続けたマエストロに敬意を表明すべく、本会場およびミラノ市内で特別な2つの展示が行われます。
まず1つ目は、フィエラ内ホール24で開催される、「DE-SIGNO(デ・シーニョ)」というテーマの展示です。デ・シーニョは、まさに、「デザイン」を意味するラテン語で、今回の展示では、レオナルドの時代から現代のイタリアのコンテンポラリーデザインに至るまでの、イタリアのデザインの文化にスポットがあてられます。映画館のような空間で、4つの大型スクリーンが並び、音楽と映像でイタリアのデザインが紹介されます。会場の内部はすべて木で創られるそうで、それだけでも見ごたえ十分な印象です。俯瞰的に500年分のデザイン文化の推移を見ることで、現代のデザインがより鮮明に浮かびあがってくるかもしれません。
2つ目は、会場となるのは、フィエラではなく、ミラノ市内サン・マルコ通り(Via San Marco)にある、コンカ・デッリンコロナータ(Conca dell'Incoronata)。ここでは、特別展示「アクアAQUA. Leonardo's Vision」が開催されます。コンカ・デッリンコロナータはレオナルドが木製の扉の設計と工事監督した建造物で、今回、バリッチ・ワールドワイド・ジョーズと共同開発される大きなLEDスクリーンを用いて、実際に、コンカ(閘門:運河の水量を調節する水門)が再現されるほか、スクリーン上に、1日の時間の中で移り変わるミラノのスカイラインを映し出すそうです。加えて、建物の地下部分にあたる部屋の中では、最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさ、エネルギー、形を体験できるインスタレーションも用意されるそう。レオナルドのビジョンを体感しに期間中一度は足を運んでみては?
フィエラミラノ(本会場)の歩き方
フィエラの展示区画は24にわかれいて、1つひとつの区画の面積がとても大きく、全部細かく見ていくには少なく見積もっても3日は裕にかかってしまうのではないかと、私も初めてフィエラに訪れた時はその大きさにすっかり圧倒されてしまったことを覚えています。
2019年は、4月9日(火)~14日(日)までの会期中、フィエラ全体で、2,300以上の企業やデザイナー(内、海外からの出展が34%)が出展します。毎日9:30~18:30までオープンしていますが、平日は業界関係者のみ、一般の来場者が入ることができるのは、週末のみなんです。
全体では大きく5つのエリアに分けることができます。それぞれ見どころをチェックしてみましょう。
まずは今年のハイライトエリア、「S.Project」について。
今回初登場となるこのプロジェクトは、ホール22、24にて展示が行われ、1万4,000㎡の展示エリアに選りすぐりの84社が参加します。いわば業界のスター企業の出展が集まるエリアとして、開始前から大きな注目を集めています。日本からも1社、広島に拠点を置く「マルニ木工」が選出されており、デザイナー深澤直人、ジャスパー・モリソンが手掛けるブランドの最新作が発表されます。その他、B&B Italia、cc-tapis、Flos、Fritz Hansen、Kvadratなど、日本にも出展している企業も目白押しだ。各ブースの展示は、これまでにない新しい表現が導入されるそうなので、必ず訪れたいホールです。これまで、ホール16や20に集められていたスター企業の動向もあわせてチェックしておきたいところ。
S.Projectのエリアの北に位置するエリア、「サローネサテリテ(SaloneSatellite)」では、若手デザイナーの登竜門として、毎年公募を通じて出展デザイナーが選定され、世界中の選りすぐりの若手デザイナーのプロジェクトが紹介されます。2019年は、デザインと食の関係に焦点があてられ、"FOOD as a DESIGN OBJECT(デザインすべき対象としての食)"をテーマに、今世界で必要とされている食の改革についての提言を含んだプロジェクトが各ブースを彩ります。今回、サテリテへの出展者数は約550人。生産方法、包装、流通、消費、廃棄物処理の方法や、カトラリーや食器、キッチン環境、食事方法など、食に関する幅広いアプローチの展示が並びます。今回で22回目を迎えるサローネサテリテからは、nendoなど、多くのスターデザイナーが生まれています(出展するためには厳しい審査に通る必要があります)。2018年に実施された上海・モスクワでのサローネサテリテの受賞者や、イタリアをはじめとする諸外国のデザイン学校や芸術大学からも参加があるエリア。サローネ開催中に審査が行われ、会期後半に、サローネサテリテエリア内でのベスト3の展示が発表・表彰されるので、こちらもチェックしておきたい。
ホール1~8、10、12、14、16、18、20では、「サローネ国際家具見本市(Salone Internazionale del Mobile)」、「サローネ国際インテリア小物見本市(International Furnishing Accessories Exhibition)」の2つの見本市が、「デザイン/Workplace3.0」(ホール5~8、10、12、14、16、18、20)、「xLux」(ホール1、3、4)、「クラシック」(ホール2)の3部門に分かれて展示されます。ホール数を見てもわかるように、この2つの見本市で全体展示エリアのほぼ7割を占めます。このエリアで注目したいのが,「Workplace3.0」です。日本でもコーワーキングエリアやシェアオフィスが駅や空港ラウンジなどの公共スペースに設置されることが多くなってきていますが、まさに、新しいオフィススペースの市場ニーズに応えることができるアイデアやプロジェクト、スマート家具などの提案が数多く展示されるエリアになっています。全出展企業792社のうち、53社は新しい展示スタイルでの出展を予定しているようなので、どんな展示なのか、要チェックです。
また、今年は奇数年(2019年)なので、隔年で開催される照明の見本市「エウロルーチェ(Euroluce)」がホール9、11、13、15で実施されます(偶数年には「国際キッチン見本市(EuroCucina)」が行われます)。出展社421社の内、48%は国外からの出展とのこと。エウロルーチェが今回とりあげている主なキーワードは、「スマート」、「持続可能性」、「ヒューマンセントリック」です。「スマート」から見えてくるのは、ケーブルレス、光の熱と色を調整するためのセンサーやシステム、生活空間のボーダレス化に伴うポータブルな光源、などです。「持続可能性」というキーワードからは、エネルギー効率、コスト削減の追及、リサイクル可能で環境負担の少ない素材の利用などがあがってきます。最後に、「ヒューマンセントリック」ですが、ここ数年、人の感情や健康、パフォーマンスやスキルに対する光の影響を分析するヒューマンセントリック・ライティング(HCL)の重要性が増しているそうです。エウロルーチェでは、各キーワードを念頭におきながら各ブースを読み解くことで、私たちが直面する直近の未来について、予測してみることができるのではないでしょうか。
フィエラには、家具だけにとどまらず、世界の最新のデザインに出会える場として、世界中のメディアが押し寄せます。売る側のメーカーは、その年1年分の受注をとってしまおうと相当な力をいれて、最高の商材やインスタレーションを仕込んできますので、会場全体が並々ならぬエネルギーに満ち溢れています。企業のブースは、ブースや展示、という言葉では軽すぎるくらい、本気のつくりこみ、いわば、家が何件も建っているような印象すらあるほどです。
レオナルド・ダ・ヴィンチが500年前に描いていたデザインの未来は、現在のデザインとどのくらい近いものだったのしょうか。そんなことを考えながらフィエラ会場に足を運んでみようと思います。イベント後のレポートも予定していますので、お楽しみに。
text_rumiko_inoue
【第58回ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano 2019】
日時:2019年4月9日(火)~4月14日(日)9:30~18:30
www.milanosalone.com
【DE-SIGNO】
日時:2019年4月9日(火)~4月14日(日)
ロー・フィエラミラノ ホール24
【アクア AQUA. Leonardo's Vision】
日時:2019年4月5日(金)~4月14日(日)10:00~22:00
Conca dell'Incoronata /コンカ・デッリンコロナータ、サンマルコ通り