国立新美術館では4月1日(月)まで、長くヨーロッパを拠点に活動し、国際的にも高い評価を得ているイケムラレイコの大規模な個展が開催されています。本展では絵画、彫刻、ドローイング、水彩、版画、写真、映像などイケムラが手掛けてきたすべてのメディアを網羅。約210点の作品が、イケムラの詩と共に会場に並びました。
プロローグでは「生命の循環」を引き延ばした大きなパネルが来場者を迎えます。イケムラは本展の準備の段階で、春から夏、秋、冬へと続き、ふたたび春を迎えるという循環を伴う自然の摂理を、展覧会の構成そのものに導入できないかと考え、試行錯誤を続けていたそうです。「生命の循環」はその大きなテーマを凝縮し、可視化しているようでした。
新作「うねりの春」は190×290cmもある大きな作品で、会場の壁いっぱいに展示されています。色鮮やかなこの作品からは生命力が香り立ち、春の高揚感が伝わってきました。作品内にぼんやりと描かれた女性や、不思議な生き物など、立ち止まってゆっくり眺めたくなります。
2011年の東日本大震災を経て生み出された「うさぎ観音 II」。スカートの裾の中は空洞になっており、実際に中にも入ることもできます。
「死はそれだけで終わるものではなく、そこから何かがはじまるという発想があり、さらに自然や人間による破壊の後に、新生や再生という希望が存在します」とイケムラ氏。続けて「それらをアートにつなげていきたいです」と力強くコメントしました。
エピローグに鎮座するのは「頭から生えた木」というタイトルの神秘的な作品。横たわった目鼻立ちのあいまいな頭から、小さな木が顔を出しています。プロローグにもあった「生命の循環」のオリジナルとともに展示され、その意味をさらに深いものにしていました。
本展の「土と星」というタイトルについてイケムラ氏は「様々な問題が世界中にある中で、それに対して私たちは何ができるのか意識しながらも、我々が享受している自然や、宇宙の大切さを、夢を持って託したいという気持ちから付けました」と自身の思いを明かしました。
イケムラ氏のヴィジョンを追体験するだけでなく、見る人の記憶や精神状態に呼応し、自分だけのイメージを紡ぎ出すこともできる本展。自身の心と向き合いに来てはいかがでしょうか。
編集部 髙橋
会場:国立新美術館 企画展示室1E
会期:2018年1月18日(金)~4月1日(月)
開館時間:10:00~18:00 ※金・土曜日は20:00まで
休館日:火曜日
観覧料:一般1,000円、大学生500円、高校生、18歳未満の方(学生証または年齢のわかるものが必要)および障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料
※2月24日(日)は天皇陛下御在位30年を記念して、入場無料。
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/Ikemura2019/