現在、国立新美術館では12月3日(月)まで国民的日本画家と謳われてきた東山魁夷(1908~1999年)の生誕110周年を記念する「生誕110年 東山魁夷展」が開催されています。本展は、東京では10年ぶりとなる大規模な回顧展です。
横浜に生まれ、東京美術学校を卒業した東山。1933年にはドイツ留学を果たし、後の画業につながる大きな一歩を踏み出しました。しかしその後、太平洋戦争に召集され、終戦前後に相次いで肉親を失うなど、苦難の時代を過ごします。そんな悲しみの中にあった東山に活路を与えたのは、自然が発する生命の輝きでした。
東山の風景画の大きな特色は、初期の代表作「道」が早くも示したように、はっきりとした構図と澄んだ色彩にあります。日本のみならず、ヨーロッパを旅して研鑽を積んだ東山は、装飾性を帯びた構図においても自然らしさを失わず、青が印象的な爽やかな色彩の力も駆使し、見る者の心と響きあう独自の心象風景を探求し続けました。
「古都望遠」(左)「晩鐘」(右)はどちらも留学先であったドイツの風景を描いたものです。「古都望遠」では東山が「ドイツの古い小さな町の典型」と語ったヴィンプフェンの建物群が描写され、青い屋根の教会、木組みの家、石の塔などが荘重に並んでいます。
「晩鐘」は、城山の展望台から街全体を眺めた風景。雲間から射す光は、ゴシック様式の美しい大聖堂のシルエットをくっきりと浮かび上がらせています。趣深い色合いが、ドイツの街並みをより魅力的に見せていました。
みどころの一つでもあるのが、完成までに10年の歳月を費やした、東山芸術の集大成とも言える唐招提寺御影堂の障壁画の再現展示。御影堂の修理に伴い、障壁画も今後数年間は現地でも見ることができないため、本展は御影堂内部をほぼそのままに間近に見ることができる貴重な機会です。取材をした日の来場者も、まじまじと目を凝らして作品を鑑賞していました。
「私にとって絵を描くことが祈りであるとすれば、上手に祈るとか下手に祈るとかは問題ではないと思います。心が籠るか籠らないか、それが問題だと思うんです」。第二期唐招提寺障壁画を書き終えた直後の1980年4月、関西学院で催された講演会で東山はこう話したそうです。
茨城県近代美術館長・尾﨑正明が「心象風景。風景を借りた心のかたち、作品は東山魁夷の自画像といえるのかもしれない」と語ったように、東山の絵画はただの風景ではなく、そこに存在するすべての生命との対話のようでした。
編集部 髙橋
information
生誕110年 東山魁夷展
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2018年10月24日(水)~12月3日(月)
※11月23日(金・祝)、24日(土)、25日(日)は高校生無料観覧日
開館時間:10:00~18:00 ※金・土曜日は20:00まで
休館日:火曜日
入場料金:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円、中学生以下および障害者手帳をご持参の方(付添いの方1名含む)は入場無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://kaii2018.exhn.jp/