現在、サントリー美術館では「京都・醍醐寺-真言密教の宇宙-」が開催されています。京都の山科盆地にある醍醐寺は、貞観16年(874)に理源大師聖宝(832~909)によって開かれて以来、真言宗醍醐派の総本山として、常に歴史の表舞台で重要な役割を果たしてきたお寺です。
本展では国宝・重要文化財に指定された仏像や仏画を中心に、濃密な密教美術の世界を体験するとともに、普段は公開されない貴重な史料・書跡を通じて、平安時代から近世にいたる醍醐寺の変遷を辿ることができます。
平安時代の貞観16年(874)、天智天皇の流れをくむ聖宝は、東大寺において諸宗を学んだ後、醍醐味の水が湧き出るという笠取山を見出し、草庵を結んで准胝・如意輪の両観音菩薩像を安置しました。これが醍醐寺の始まりです。「聖宝坐像」では、民衆の救済に尽力したという聖宝の優しげな表情を見ることができます。
加持祈祷や修法(儀式)などの実践を重視した醍醐寺は、その効験によって多くの天皇や貴族たちの心をとらえました。多くの僧が集まる根本道場と位置付けられた醍醐寺には、修法の本尊として欠くことのできない彫刻や絵画、修法に用いる仏具、修法の手順や記録などを記した文書や聖教などが蓄積されていきました。
見開いた両目や下唇を噛んだ口元が印象的な重要文化財「不動明王坐像」の作者である快慶は、醍醐寺と深い関係があり、彼の作品が寺にいくつも存在したそうです。これは、鎌倉時代初期の醍醐寺において、活発な造営造仏が推進されていたことを物語っています。
本展の中でも群を抜いて大きな作品がこちらの国宝「薬師如来および両脇侍像」です。光背の周縁には六軀の小化仏が付けられていますが、これは七仏薬師を表しているのだとか。
真ん中の2メートル近くの大きさを誇る「中尊薬師如来像」は左手に薬壺(やっこ)を載せ、右手は掌を正面に向けて施無畏印(せむいいん)をつくっています。施無畏印には、生命あるすべての生物の恐れの心を取り去って救済をする、という意味が込められています。
16世紀末に第80代座主となった義演は、豊臣秀吉などから支援を受けて戦乱により荒廃した伽藍の復興整備を進めました。また、醍醐寺伝来の膨大な古文書・聖教の書写整理も行いました。
本展でも展示されている直筆の「義演准后日記」(慶長3年上・慶長7年上)は、豊臣政権末期から徳川幕府初期にかけての醍醐寺や仏教界、政治社会動向などを知る重要な史料として扱われています。
このほかにも、本展では国宝34件、重要文化財43件という貴重な寺宝が一堂に集結しています。醍醐寺の長い歴史の中で生まれ出た様々な作品の奥深さを、自身の目で堪能してみてはいかがでしょうか?
編集部 髙橋
information
京都・醍醐寺-真言密教の宇宙-
会場:サントリー美術館
会期:2018年9月19日(水)~11月11日(日)
開館時間:10:00~18:00(金・土および9月23日、10月7日は20:00まで開館)
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(ただし11月6日は18時まで開館)
観覧料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://daigoji.exhn.jp/