現在、TOTOギャラリー・間(ま)では、建築家・藤村龍至氏の個展「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」が開催されています。本展では、各プロジェクトで実際に使用した300余りの模型群や、数千にもおよぶ画像をAI(人工知能)に学習させデザインした椅子、施工風景を含むタイムラプス映像など、かたちが生み出されるプロセスを通じて、藤村氏の理念と実践が紹介されています。
設計について「今知っていることを素早く"かたち"にすることと、かたちにしたものを"ことば"にして新しい知識にすることを繰り返すこと」だと藤村氏は語ります。さらに、より確かな解に近付くには「3人寄れば文殊の知恵」、つまりより多くの知恵を集めることが唯一の方法だとも明かしました。
これまで、住宅やオフィスの設計、シティマネジメントや日本列島の将来像の提言などを行ってきた藤村氏ですが、そのスタート地点は単純なアイデアや形。それに対して一つ問題が生じる度に、一つの解決方法を出す、という1対1の手順を重ねて、その場所にふさわしい形を生み出してきました。
これにより、建築家だけでなく、その設計に関わるより多くの人が様々な意見を出しやすくなっていきます。一つ一つは単純な作業にも関わらず、結果は複雑なものとなる、知識と形態の創造的な関係を藤村氏は"ちのかたち"と名付けました。
こちらの「離散空間家具H」は、藤村氏が運営に携わる鳩山町コミュニティ・マルシェに設置予定の家具。写真のように、場所や用途によって方向を変えて使うトランスフォーム型の家具です。これもマルシェの職員とともに、最近どんな出店が多いのか、どんな形が使いやすいのかなどのディスカッションを行い、設計していったのだとか。
"ちのかたち"は人の知識だけによるものではありません。インターネットメディアの"知"を利用したのがこの「G Chair」。日本語を含む世界9カ国の主要言語で「椅子」をGoogleで画像検索し、出てきた各国の椅子の構成要素を加算しながら1つの統合形を構成したものです。一番奥にある大きい椅子は、全世界の椅子の要素を掛け合わせたもの。思わず一つ一つの椅子をじっくりと眺めてしまう、おもしろい試みです。
「平凡に映る意見の集合も、十分に大きな集合であればひとりの天才を超える可能性が開かれます」と藤村氏は語ります。その言葉通り、本展では多くの"知"が合わさり、一つの作品を形作っています。建築とは、ただ単に建物であるというだけではなく、想像的な知のツールなのだと考えさせられる展覧会でした。
編集部 髙橋
information
藤村龍至展 ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用
会場:TOTO ギャラリー・間
会期:2018年7月31日(火)~9月30日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜日
観覧料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://jp.toto.com/gallerma