現在、TOTOギャラリー・間(ま)では、建築家・平田晃久の個展「平田晃久展 Discovering New」が開催されています。本展では、建築を広義の生命活動として再発見することで新たな可能性を見出そうとする、平田氏の試みが紹介されています。
ギャラリーに足を踏み入れて目に飛び込んでくるのは、不規則に繋がるステンレスパイプと、ところどころに置かれた建築模型や、不思議な形をしたオブジェです。一見ランダムに配置されているように見えるこれらですが、実はここには彼の思考が隠されています。
これは、『思考の雲』と名付けられた、展示を読み解くための地図のようなもの。「新しいかたち」「新しい自然」「新しいコミットメント」という章立てに対応した大きな3つの軸があり、それぞれの軸から4つずつ概念のキーワードが広がっています。これはすべて作家自身が直筆でギャラリーの壁面に記したものです。
展示では軸に模したステンレスパイプの交点に、複数の概念を持つ模型やスケッチが配置されています。全部で12個のキーワードがありますが、どのプロジェクトも最低2つ以上のキーワードと結びついており、その交差がどのように起こっているのかがそのまま形になっています。
会場構成について平田氏は「すべてを正確に読み取る必要はありませんが、関係性があるということは感じていただけると思います。近くにあるプロジェクト同士の繋がりもあるので、そういった細かい部分も楽しめるのではないでしょうか?」とコメントを寄せています。
彼は建築を「"からまりしろ"を作ることである」と捉えています。"からまりしろ"とは、空間や建造物に周辺の環境と「絡まる」ことができる「しろ(=余地)」を作るという考え方です。
幼い頃から生き物に惹かれ、生物の研究者になりたかった頃もあったという平田氏。「生き物は常に自分たちの存在を更新し続けて生きています。それは発明ではなく"発見"。隠されていたものを顕在化させる何かです。だからこそ、私も何かを"発見"することによって、建築を作りたいんです」。"からまりしろ"の考え方は、彼の内にある生物研究者としてのスピリットを映し出しているとも言えるのではないでしょうか?
ギャラリーの4階は『リアルの海』と名付けられた体験型の展示となっています。まず、中央には木を削り出して作った、高さ2.1メートル×長さ6.5メートルもの「Timber Foam+」が展示されています。木製モックアップにぶらさがっているものは、本展設営の様子や、写真家・阿野太一が撮った「太田市美術館・図書館」の写真などのスライドショーを映すタブレットです。中に置かれた椅子に座ってみると、その滑らかな曲線や木のぬくもりから、優しさに包まれているような安心感がありました。
そして、奥には、写真家・市川靖史の撮影・編集による、「太田市美術館・図書館」「Tree-ness House」の大きな映像が流れ、実際の空間を体験しているかのような感覚となります。
作品のみが展示されるギャラリーが多い中で、本展では作品とあわせて、なぜそれが今の形に至ったのかが、平田氏の建築哲学と世界観とともに紹介されています。会場全体を見て回っても展示を堪能できますが、気になった作品を見つけて、そのルーツを探ってみるのも楽しみ方の1つではないでしょうか?
編集部 髙橋
information
平田晃久展 Discovering New
会場:TOTO ギャラリー・間
会期:2018年5月24日(木)~7月15日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜
観覧料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://jp.toto.com/gallerma