現在、OTA FINE ARTSでは社会的なメッセージを内包する作品によるグループ展「Be there」が開催されています。本展では作風やバックグラウンドの異なる作家5人が自分たちの身近にある問題を取り上げ、"そこに問題が存在する"ことを力強く語ります。
アキラ・ザ・ハスラーは、HIVや様々なマイノリティをめぐる反差別活動を行っているアーティストです。この「Tools for Hope」の二つのペインティングは、2017年に共謀罪に反対する渋谷駅前での街頭演説にも使われたプラカードが基になっています。
写真左のキャラクターは頭が雲の形になっていますが、これは雲(cloud)と群衆(crowd)の文字をかけたものなのだとか。また、右にいるのは頭部がオオカミになった少女。「DON'T TELL LIES」というダイレクトなメッセージと、腕で作ったバツ印が印象に残ります。
キリ・ダレナは、彼女の出身国であるフィリピンの社会的な不平等や不正に焦点を当てた作品を制作しています。写真の右はシリーズ作品である「Erased Slogans」、直訳すると"消されたスローガン"です。本作は、1970年代のフィリピンのマルコス政権下で行われた戒厳令に対する抗議運動を撮影したものですが、講義に参加している人たちのプラカードのメッセージはデジタル処理し、白く塗りつぶしています。意図的にメッセージを消すことによって、当時の軍事政権下での政治的な抑圧の大きさを表現しました。
写真左の2冊の本は「Book of Slogans」です。「Erased Slogans」シリーズにおいて消し去られたプラカードのメッセージを集め、本にしたものです。本の中に閉じ込められ、自ら進んで本を開かないと知ることができないメッセージは、民衆の声を暗示しています。
これは、照屋勇賢による新聞紙を利用した「It's about me, it's about you」。新聞紙には、タイトルになっている文字が切り抜かれています。この作品は、沖縄以外の人々に対して沖縄の基地問題を自分たちの問題と捉えることを促すだけでなく、沖縄の人々に対しても、自分たちの問題だけでなく世界各地で起きている地政学的な問題にも目を向けよう、と訴える意味も持ち合わせています。そのため本作では、大きな政治問題を抱えるジョージア、イスラエル、バスク地方等の言語でメッセージの切り文字が施されています。
安倍首相が任天堂のゲームキャラクターであるマリオに扮した「マリオ安倍」は、現代の政治についてペインティング、版画、インスタレーションなどで作品を制作し続けている竹川宣彰によるものです。
本作は、ウラジオストクで約2年に一度開催される国際ビジュアルアートフェスティバル"ウラジオストクビエンナーレ"に「オリンピア 2020:健康的な死者たちの祭典」(2017年)の一部として展示されたもの。誰しもにあてはまるような包括的でシリアスな問題をテーマの軸としながらも、センスとユーモアに富んだモチーフで作品を制作しており、必ずしも美術の知識を問わない親しみやすい作風が高い評価を得ています。
嶋田美子は、日本人慰安婦問題に着目し、見過ごされていた問題を「歴史的な事実として日本人が向き合うべき事柄である」との思いから、日本人慰安婦の存在をないもののように扱おうとする社会へ問題を突きつけています。会場では、実際に国会議事堂前などでパフォーマンスを行った際の映像と写真が展示されています。
本展のタイトルになっている「Be there」とは、デモや集会に参加しようという意味で使われる言葉。広く知られた現代アートと政治の繋がりですが、本展ではそれだけではなく、作家を取り巻くジェンダーや、差別、日常生活について考えるきっかけとなるのではないでしょうか?
編集部 髙橋
information
Be there
会場:OTA FINE ARTS
会期:2018年5月15日(火)~2018年7月7日(土)
開館時間:11:00~19:00
休館日:日曜、月曜、祝日
観覧料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.otafinearts.com/jp/