3月17日(土)から3月25日(日)まで国立新美術館にて開催された「ここから2 ― 障害・感覚・共生を考える8日間」に行ってきました。"障害・感覚・共生を考える"をテーマにした本展では、障害のある方々が制作した魅力ある作品や、文化庁メディア芸術祭の受賞作などから選ばれた、障害に関連するマンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアート等の作品を楽しむことができました。
今回の隠しテーマは"円"。NHK大我ドラマ「平清盛」の題字や、社寺での揮毫奉納(筆をふるってかいた文字や絵を納めること)などで知られる金澤翔子さんは、今回のために「円相」をかきました。力強い筆遣いに、金澤さんの熱い思いを感じます。
横溝さやかさんの「オレ三世とピ・ヨンジュの大冒険」は、2014年から現在にわたって描かれ続けているシリーズものです。オレ三世とピ・ヨンジュとは、写真の2枚目にいるスケートボードに乗った二人(二匹?)のこと。
二人は、東京や大阪など様々な場所を旅しています。イラストの中では、その場所の観光地などが彼らを取り囲んでおり、東京ならば109・東京ドーム・雷門、大阪ならば通天閣・天王寺動物園・かに道楽などが所狭しと描かれています。
二人も旅をさらにエンジョイするためか、場所に合ったコスプレ姿で登場。そのほかにも人間と動物が楽しげに共生している姿が描かれています。イラスト全体も華やかで面白いですが、オレ三世とピ・ヨンジュ、そこにいる一人一人をじっくりと眺めていると、思わず時間を忘れてしまいそうです。
漫画「淋しいのはアンタだけじゃない」は、作者である吉本浩二さん自身が取材をしながら聴覚障害の実情に迫る様子を描いたドキュメンタリー作品です。聴覚障害者が普段暮らしていく中での孤独や苦しみが、漫画という手法で巧みに描かれています。
他人の喋っていることが上手く聞き取れない状況を、吹き出しの中の文字を変形させて表現したり、耳鳴りを例えた「ジェット機がすぐ上で飛んでいる感じです」という証言を、そのままイラスト化するなど、聴覚障害がない人にも彼らの聞こえ方が理解できるような工夫がなされています。
島影圭佑さんは父親の失語症をきっかけに、文字を読み上げてくれる眼鏡「OTON GLASS」の研究開発を始めました。この眼鏡の使い方はとても簡単。眼鏡をかけて読みたい文字の方向を向き、"つる"の部分に取り付けられたボタンを押すだけ。しばらくたつと、看板や標識などに書かれた文字が音声として読み上げられます。
眼鏡に搭載されたカメラで撮影した写真がクラウドにアップロードされ、画像認識エンジンで写真に含まれる文字を抽出。さらにその情報を、音声合成エンジンで音声データに変換して音を流す、といういくつもの手順を踏むこの眼鏡ですが、実際に体験してみると、ボタンを押してから音声が聞こえてくるまで数十秒もかからず、ストレスなく文字を"聞く"ことができました。
Ryo Kishiさんによる、不安定で偶発的な揺らぎを生み出す照明装置「ObOrO」は第20回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門新人賞受賞作品です。宙に浮く白いボールは、糸やワイヤーといった支えを一切持たず、下にある送風機からの空気によって絶えず宙に浮いています。この送風機は、まるで身をくねらせるように様々な方向を向きますが、ボールもそれに合わせて浮いたまま動き、まるで二つで一つの生き物のようです。
このほかにも、映像や彫刻作品などが展示され、実際に触って楽しめるものもありました。障害があると聞くと、マイナスの意味で"我々にできないことがある"ととらえてしまいがちですが、それはまったく違います。障害があるからこそ感じ取れる感覚、障害者が健常者と、健常者が障害者と共に生きていくからこそ生まれてくるアイデア...。障害者はマイナスではなく、プラスの意味で"我々にできないことがある" 方々なのだと気付かされた展覧会でした。
編集部 髙橋
information
ここから2 ― 障害・感覚・共生を考える8日間
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2018年3月17日(土)~3月25日(日)※終了しました
開館時間:10:00~18:00
観覧料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.kokokara-ten.jp/