現在、21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3では「thinking tools. プロセスとしてのデザイン―モダンデザインのペンの誕生」展が開催されています。本展ではドイツのペンブランド"ラミー"のデザインの過程に焦点を当て、初期のプロトタイプやスケッチ、そして完成品まで数多くの展示品をドイツ・ハイデルベルグのラミー社アーカイブから取り寄せ、展示しています。
ラミーでは、初のデザインプロダクトである「LAMY 2000」が登場した1966年を"ラミーデザイン誕生の年"として定めています。本展はラミーデザイン50周年を迎えた2016年に、ドイツ・フランクフルトの応用工芸博物館で行われた「thinking tools展」の世界巡回展であり、本社のあるドイツに次いで2番目の開催となります。
ブランド名としてのラミーは1952年にスタートし、「ラミー 27」万年筆によってその躍進性と先進性を世の中に広く知らしめました。それまでは、「オルトス」と「アルトゥス」という二つの商品名で万年筆を発売していたラミーですが、「ラミー 27」は創業者であるカール・ヨーゼフ・ラミーの名を冠した初めてのモデルです。
学生向け万年筆「ラミー サファリ」が世界中でベストセラーとなっているのは、青年心理学の徹底的な研究と、ベルント・シュピーゲル教授が率いるシュピーゲル・リサーチグループ・イン・マンハイムとのコラボレーションの賜物。シュピーゲル教授はラミーのためにマーケティング調査を行い、その結果から「ラミー サファリ」には"冒険"や"自由"といったテーマが取り入れられることになりました。
特徴的なクリップのデザイン画には、さまざまなメモが書き込まれています。学校での使用を前提とし、素材にも仕上がりにも質の高さを求めたためです。発売当初は「ラミー サファリ」に込められた冒険心を表現するため、テラコッタオレンジとサバンナグリーンというマットな2色で展開されました。厚紙のパッケージは海外輸送用の木箱をイメージして作られています。
「ECON」は、ウイーンのデザイナーチームであるEOOSが手掛けたライティングツールです。ラミーは彼らに「販売価格が15ユーロ(約2000円)以下の斬新な金属製のボールペン」の製作を依頼。このコスト条件を満たすため、EOOSは思案をめぐらせました。
EOOSは、木製の模型から現代的な3Dプリンティングまでのさまざまなプロトタイプを使い、現在のデザインに近づけていきました。紙や粘土による模型や、アルミニウムを使った模型など、完成形までの過程も実際に見ることができます。
本展ではコントリビューターとして、世界的なイラストレーターであるクリストフ・ニーマンがインスタレーションやドローイングを手掛けました。ペンそのものを使ったオブジェや、紙に書いた線を想像させるような作品など、ペンの製作過程だけではなくこれらの展示も見ごたえ十分です。
会場の奥には、実際にラミーのペンを使える場所が設けられています。用意された紙には、「わたしにとって、書くこととは...」や「あなたのアイデアを形にする"Thinking tool"を描いてみましょう」など、本展ならではの問いかけが印刷されています。
それぞれの答えを書いた紙は、記念として持って帰ることもできますが、会場に設置された棚に飾ることもできます。今回訪れた際にも、誰かが置いていった"Thinking"を見ることができました。それは日本語だけでなく英語、はたまたイラストなどさまざまで、ペンの濃淡一つとっても、じっくり手に取って眺めてしまうほどです。
実際に我々が手にして使うペンは、どれも完成品ばかりです。しかし、このように製作過程や、そこに携わったデザイナーの存在を知ることにより、これまで道具としてしか見ていなかった筆記具1本に、大きな可能性や愛着が生まれてきます。書くという作業だけではなく、それによって生まれてくるイマジネーションを身近に感じるような展覧会でした。
編集部 髙橋
information
thinking tools. プロセスとしてのデザイン―モダンデザインのペンの誕生
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
会期:2018年3月3日(土)~4月8日(日)
開館時間:10:00~19:00
休館日:火曜日
観覧料:無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.lamy.jp/thinkingtools.html