現在、国立新美術館では12月18日(月)まで、「国立新美術館開館10周年 新海誠展『ほしのこえ』から『君の名は。』まで」が開催中です。本展覧会は、アニメーション映画監督である新海誠さんの商業デビュー15周年を記念したもので、国立の美術館において、現役アニメーション映画監督の名を冠した展覧会が開かれるのは初めてのことなのだとか。
開幕前日には、新海さんと共に、『君の名は。』の主人公・立花瀧役の神木隆之介さんが会見に登場しました。神木さんは、自他ともに認める新海さんの作品の大ファンだそうで、そんな彼が本展覧会の音声ガイドの声の案内人を務めています。
新海さんは、本展覧会場となっている国立新美術館が『君の名は。』でも主人公のデート場所として使われていることに触れ、「(国立新美術館は)東京のある種の象徴ですし、風景としても圧巻される場所で...。ですから、高校生である主人公瀧のキャラクターを描くためにここを選んだんです。しかし、まさかその1年後にこうして展覧会を開いていただけるとは、夢にも思っていなかったです」とコメント。
一般公開よりも一足早く展覧会を観てまわったという神木さんは、「入ってすぐ、あっと驚くような仕掛けがあるんです。そのまま進んだ先もとても素敵で...。言葉で言い尽くせないほどです」と興奮冷めやらぬ様子で語っていました。
展覧会では、ラフ画やキャラクター画のパネルだけでなく、壁にいくつものモニターが埋め込まれ、作品の映像がBGMと共に流れていました。また、置いてある物にも工夫が施されており、新海さんのデビュー作となった『ほしのこえ』のブースでは、インターネットやパソコンが広がり始めた当時(2002年)を思い起こさせるようなデスクトップモニターで予告編が再生されています。
デビュー当時、作画作業の経験がなく、見よう見まねで映像を作り上げていったため、通常のアニメーション映画よりも少ない作画枚数で作品を完成させた新海さん。しかも、監督・脚本・映像など制作のほとんどを、すべて一人で行いました。少ない作画枚数ながら、それを感じさせないシナリオ、美術、映像、編集の高い技術による演出で作品の完成度を上げています。同作には、「男女の切ない恋」「時間と距離」「
こちらは、『言の葉の庭』で作画の参考にされた靴のレプリカ。主人公の高校生タカオが、謎の年上の女性ユキノのために作っていた靴です。「男子高校生が思いつきそうなデザインで、オーソドックスになりすぎないもの」という新海さんの意向をもとに、靴工房で制作されました。タカオの靴も作られたものの、効果音の素材として解体されてしまい、現存はしていないそうです。
このほかにも、『星を追う子ども』に登場する鉱石ラジオや、『君の名は。』で物語の鍵となる組紐を作るための丸台を再現したものなどが展示されています。実際に立体となって目の前に表れると、作品の臨場感がぐんと増し、もう一度これらが登場する場面を見返したくなってしまいます。
この展覧会で知ることができるのは、作品についてだけではありません。新海さんの出生から、小学生で初めて使った家庭用パソコン、作品にも多大なる影響を与えた出身地である長野県南佐久郡小海町の風景、衝撃を受けた本など、新海さんのルーツについても知ることができます。
多くの人が近づいたり離れたりを繰り返しながら眺めていたのが、キャラクターや背景画の彩色工程と、ロケハン写真・美術背景・場面カットのそれぞれの比較。作品の中で1カットは4秒程度しか映らないそうですが、そんな短い間にも果てしない手間と苦労がかかっていることが伝わるクオリティです。近くでよく見ると、ロケハン写真と描かれた背景の違いが分かりますが、少し離れると、どれもクリアな写真のように見えます。
『君の名は。』のオープニングでは、瀧のいる東京からヒロインである三葉のいる糸守まで、数百キロの距離をカメラが一気に移動するシーンがあります。その場面は、都庁から撮影した写真をPhotoScanで3Dモデル化し、それに合わせて美術背景を何層にも分けて用意したのだとか。聞いただけで眩暈が起きそうな膨大な量の作業ですよね。上の画像は、そのオープニングを構築している3D空間の再現です。正面からまっすぐに覗き込むと、まるで奥に描かれた山まで飛んでいくような不思議な感覚が味わえます。
出口には、『言の葉の庭』の世界に入り込んだような写真が撮れる無料フォトスポットが。写真の背景となるのは、学校をサボったタカオと、昼間からビールを飲んでいるユキノが最初に出会う、あの思い出深い東屋(あずまや)です。一人で黄昏ながら撮るもよし、誰かと一緒に『言の葉の庭』の再現シーンを撮るもよし、ファンにはたまらないおすすめスポットです。撮影した写真は、QRコードで自分の携帯にダウンロードすることができるので、QRコードの読み込み機能が携帯に入っているかチェックしてから、撮影を行ってくださいね。
今回ご紹介した以外にも、たくさんの発見と感動溢れる展示品が並ぶ新海誠展。会場を出る頃には、ますます作品と監督のファンになっていること間違いなしです。
information
「国立新美術館開館10周年
新海誠展『ほしのこえ』から『君の名は。』まで」
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2017年11月11日(土)~12月18日(月)
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00~18:00
※毎週金曜日、土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円、中学生以下無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://shinkaimakoto-ten.com/tokyo/