榮榮&映里《三影堂、北京2008年 No.20-3》2008年
現在、森美術館では「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」と合わせて、「MAMリサーチ005:中国現代写真の現場――三影堂撮影芸術中心」が開催されています。
MAMリサーチとは、アジアの現代美術を中心に特定の作家や動向に着目し、歴史的・社会的な文脈とともに考える資料展示です。作品を鑑賞するだけではなく、それが生まれた背景についてじっくりと理解を深めることができます。
展示風景:「中国現代写真の現場――三影堂撮影芸術中心」森美術館、2017年
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館
今回の展示では、中国現代写真の流れを振り返りつつ、中国人と日本人の写真家ユニット榮榮&映里(ロンロン・アンド・インリ)が誕生した経緯とその活動、そして二人が中国で立ち上げた写真の複合施設「三影堂撮影芸術中心」について紹介しています。
榮榮&映里
写真提供:三影堂撮影芸術中心
榮榮(1968年中国の福建省生まれ)と映里(1973年神奈川県生まれ)は1999年に日本で出会い、2000年に北京でユニットとしての活動を開始させました。
榮榮は、1990年代に前衛的な若手芸術家らが北京の郊外に作ったコミュニティ「東村」に参加するなど、精力的に活動していたそう。
しかし、東村での活動は、政府の圧力を受けて続行できない状況となり、榮榮は北京の郊外にある六里屯という小さな村に移り住むことになりました。そこで、写真誌『ニュー・フォト』を制作し、自費出版します。後の三影堂の開館記念展のテーマにもなったこの雑誌は、実験的写真の記念碑的な作品シリーズだと言えます。
榮榮&映里《六里屯、北京》2002−2003年
その後、榮榮は展覧会に参加するために訪れた日本で映里に出会い、二人は六里屯で共同生活をはじめることに。こうして写真家ユニット榮榮&映里としての活動が始まったのでした。
生まれも環境も話す言語も全く異なる二人が写真を通して出会い、惹かれ合い、そして写真活動を共にするということは、ほとんど奇跡のようなことではないでしょうか。
榮榮&映里の写真シリーズ《六里屯》では、都市再開発のために取り壊されてゆく自宅と、そこに佇む印象的な二人の姿が映し出されています。
榮榮&映里「変容展」展示風景 2003年
2000年代に入って現代芸術が中国で広く受け入れられる中で、2004年に榮榮&映里は「大釜戸」という北京の巨大な工場跡地を実験芸術として見せ、都会の変容を問いかける「変容展」を開きました。
三影堂(北京)の外観
写真提供:三影堂撮影芸術中心
2008年の北京五輪開催を控え、めまぐるしく環境が変わる北京で活動していた榮榮&映里は、美術を取り巻く状況が市場優先であること、そして現代美術において写真の存在感が比較的小さいことを懸念し、中国に写真のためのプラットフォームが必要だと考えるようになりました。その考えを形にしたのが、2007年に北京でオープンした中国初の民間の写真専門のアートセンターである「三影堂撮影芸術中心」です。
三影堂では、国内外の様々な機関や写真家と連携し、写真芸術の最新の状況を積極的に紹介するほか、写真芸術の教育普及活動や中国人写真家を対象とする「三影堂撮影賞」というコンテストを開催し、写真の可能性を広げています。
展示では、「三影堂撮影賞」の受賞作品や受賞者インタビューを見ることができ、「三影堂」が考える優れた写真作品に触れることができます。
「蜷川実花写真展」展示風景 2016年
2015年には、福建省厦門に「三影堂厦門撮影中心」がオープンしました。ここでは、フランスの「アルル国際写真祭」とともに「ジメイ・アルル国際写真祭」を開始し、写真芸術の国際的な交流を深めています。
また、映里の日本でのネットワークにより、荒木経惟や蜷川実花など日本の著名な写真家を招聘し、写真展も開催しています。二人は今後、中国の写真家を日本に紹介する機会も増やしていきたい、とも語っており、その活動はますます広がっていきそうです。
北京の三影堂撮影芸術中心のオープンから10年経った今、みなさんも会場でその歴史を共有してみてはいかがでしょうか。
information
中国現代写真の現場――三影堂撮影芸術中心
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
会期: 7月5日(水)~ 10月23日(月) 会期中無休
時間: 10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ、17:00まで(最終入館 16:30)
※「六本木アートナイト2017」開催に伴い、9月30日(土)は翌朝6:00まで
※入場は閉館時間の30分前まで
入館料:一般:1,000円 大学・高校生:500円
※「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」チケットで入館可
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/mamresearch005/index.html