みなさんは、日本美術にどのようなイメージを持っていますか。「とっつきにくい」「むずかしそう」、と敬遠している方もいらっしゃるでしょうか。そんな日本美術を、子どもから大人まで誰にでも楽しんでもらえるように工夫して展示しているのが、東京ミッドタウンのサントリー美術館で現在開催されている「おもしろびじゅつワンダーランド2017」です。
この展覧会のコンセプトは、日本美術をからだ全体で体験・体感すること。様々なデジタル技術や舞台装置を通して、作品の世界に入り込むことができます。
はじめに出迎えてくれるのは、狩野探幽による《桐鳳凰図屏風(きりおうほうずびょうぶ)》の映像パネル。屏風が開くたび黄金色が広がり、神々しい鳳凰が現れて空間が華やいでいく様子を体感できます。
身体の動きに反応するインタラクティブな仕掛けも。見る人の手の動きに合わせて動く映像コンテンツで、鳳凰が登場します。手を大きく動かすと、屛風に描かれている鳳凰が、いろんな場所を旅するストーリーが始まります。
《桐鳳凰図屏風》狩野探幽筆 六曲一双 六曲一双のうち右隻 江戸時代 17世紀(無断転載禁止)
映像やデジタルコンテンツを楽しんだ後は、実物の作品をじっくり鑑賞。幸せを意味する鳳凰が描かれたこの屛風は、結婚祝いのためにつくられたのだとか。なんとも贅沢な結婚祝いですね。この屛風だけでなく、漆工や磁器など、鳳凰が描かれた他の作品も多く展示されています。
さらに進むと、雰囲気が一転。暗い空間の中で切子ガラスがきらきらと輝いています。切子といえば赤や青など鮮やかな色をイメージしがちですが、ここでは無色透明のものが集められていて、切子の繊細さがより際立ちます。
切子が輝いているように見えるのは、ガラスの表面に刻まれたカットによって光が屈折するため。展示台に並ぶ切子の後ろには、カット文様を接写した拡大映像が流れていて、技工の緻密さに目を奪われます。
クーラーも扇風機もなかった江戸時代、涼しげな佇まいの切子は、調度品としても食器としてもきっと重宝されたのでしょう。
暗い空間を抜けると、煌びやかな空間に。縁起のいい宝物の柄を集めたデザインである宝尽文(たからづくしもん)が施された作品が多く展示されていました。隠蓑(かくれみの)や軍配(ぐんばい)、法螺貝(ほらがい)など、昔話や時代劇などで目にしたことがあるアイテムが並びます。
部屋中央には、宝尽文が描かれた「色絵寿字宝尽文八角皿(いろえことぶきたからづくしもんはっかくざら)」を模した大きなスペースがすえられています。中にはいろんな種類の宝物のクッションが入っており、それぞれの名前と説明が書かれています。靴を脱いで中に入ることもできるので、遊びながら宝物について学ぶことができます。
階段を降りて次の展示スペースに現れたのは、大きな白いとっくりとマイク。手前の黒いマイクに向かって声を発すると、写真のように様々な形の「吹墨文(ふきずみもん)」が現れます。吹墨文とは、墨を吹き散らしたような文様のことです。
声の大きさや音によって出てくる吹墨文は様々なので、色々試して音と文様のイメージを比べてみるのも面白いかもしれません。
こちらが江戸時代に作られた、実物の吹墨文のとっくり、「染付吹墨文大徳利」。筆で描くのではなく絵の具を吹き散らして模様をつけるというのは、なんともユニークな技法ですね。ひと吹きひと吹きに気合いが入りそうです。
可愛らしいねずみの案内標識に誘われてたどりつくのは、鼠草子絵巻の部屋。ねずみが人間の姫君と結婚することを企てる、奇想天外なお話です。絵巻は場面の展開がわかりづらいと思われるかもしれませんが、ナレーションやセリフが入った音声ガイドを借りて鑑賞すると、ストーリーにぐっと入り込むことができます。果たして、ねずみは無事姫君と結婚できるのでしょうか?
最後の展示スペースには着物がずらり。着物によく用いられるモチーフの意味を説明したパネルがあり、1枚1枚に込められた意味を知ることができます。たとえば、写真の能装束には菊水という模様が描かれています。「ぐるぐるとうずまく川の中に、菊の花が浮かんでいます。中国の伝説にもとづく文様で、不老不死を意味します」とのこと。
自分だけのオリジナルの着物をデザインするコーナーも。着物の色、モチーフの配置、そして出来上がった着物を着るお人形をカスタマイズし、名前を書き入れて、完成です。
完成した着物とそれを着たお人形は大きなモニターに表示されるので、他の人のいろんなデザインを眺めるのもまた一興。
自身で体験してこそ楽しめる展示が盛りだくさんなので、この機会にぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
information
「六本木開館10周年記念展 おもしろびじゅつワンダーランド2017」
会場:東京ミッドタウン ガレリア3階 サントリー美術館
会期:8月1日(火)〜8月31日(木)
休館日:8月6日(日)のみ
時間:10:00〜18:00
(金・土および8月10日(木)は20時まで開館)
※いずれも入場は閉館の30分前まで
入館料:一般:1,000円 大学・高校生:800円
中学生以下は無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します): http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_4/