「その箱を開けると白い煙がもくもくと上がり、気がつくと浦島太郎は、なんとお爺さんになっていました。」......"手箱"と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、この物語ではないでしょうか? そんな手箱を特集した展覧会「神の宝の玉手箱」がサントリー美術館で開催されています。あの北条政子をも魅了したという手箱の魅力を、たっぷりと堪能できます。
そもそも手箱とは、貴人たちが櫛や鏡、化粧道具など身近な道具を入れていた箱のこと。その起源は、平安時代頃まで遡ります。もともとはただの容器だった手箱ですが、この頃から蒔絵や螺鈿など当時最新の技術によって装飾されはじめます。美しく飾られた手箱は、それ自体が宝物としての価値を持つようになりました。
展覧会は、そんな手箱の魅力を5つの切り口でから紹介しています。
第1章「玉なる手箱」では、女性の調度品としての華やかな手箱、また神様への捧げものとして、贅を尽くして仕立てられた"神々の調度"である手箱など、豪華な作品群が展示されています。
会場に足を踏み入れてすぐに現れる、きらびやかな手箱たち。国宝「秋野鹿蒔絵手箱」は、黒漆地に蝶貝の螺鈿を用いて、秋の野で遊ぶ鹿たちや、小鳥の様子を細かに描いており、作り込まれたその繊細さに思わず息を飲んでしまいます。
第2章「手箱の呪力」では、浦島物語に代表される、手箱についての不思議な逸話と、それにまつわる品々が展示されています。絵巻に描かれている事実は、当時の人々が手箱に大きな関心を寄せていたことを物語っています。
後に神宝として特別な意味を持つようになる手箱ですが、元々は身の回りものを入れるための、生活に密着した調度品でした。第3章「生活の中の手箱」では、櫛、鏡、香合など、手箱に納められていたものと並べて展示しており、日用品として使用されていた当時の生活を伝えます。しかし、日用品といってもその精度は見事なもの。当時の女性たちの心を躍らせるものだったのではないでしょうか。
さらに歩みを進めると、本展覧会の主役である国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」がお目見え。約50年ぶりの保存修理以来、初の公開だそうです。
この手箱が納められていた木箱の裏には、源頼朝の妻・北条政子が愛用していたことを示す書付が残っており、当時の女性貴人の代表、いわば"超セレブ"が愛した一級品であったと見られます。
暗がりの中で、浮かび上がるように一際の輝きを放つ浮線綾螺鈿蒔絵手箱。その美しさは、時間が立つのを忘れて見入ってしまうほどで、まさに"玉なる手箱"と呼ぶにふさわしい存在感を放っていました。第4章「浮線綾文と王朝の文様」では、浮線綾螺鈿蒔絵手箱にもみられる浮線綾文を中心に、有職文様にスポットを当てた展示が展開されています。
最後に、「神宝と宮廷工芸」と題された第5章では、神様への奉納品「神宝」として仕立てられた手箱や服飾調度など、宮廷工芸の品々を見ることができます。
眼を見張るような美しい展示が並ぶ中で、個人的におすすめしたいのが、第1〜5章とは別にトピックとして展示されていた「名品手箱の模造と修理」のエリア。
今回、残念ながら実物を展示するに至らなかった七つの名品の「模造」が展示されています。
模造というと"本物でない品"というマイナスなイメージがあるかもしれませんが、単なるかたちの模倣とは異なり、原品と同じ手順・技法で造られています。当時の輝きと非常に近くつくられており、技術の伝承を間近で感じることができます。伝統技術の伝承の場、そして新たな創造の原点としての模造の意義深さを知ることができました。
かつての文化・技法・社会背景など、様々な観点から手箱の魅力を掘り下げる「神の宝の玉手箱」展。ぜひ、その美しい輝きを直接体感してみてください。
information
「六本木開館10周年記念展 国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》修理後初公開 神の宝の玉手箱」
会場:サントリー美術館
会期:2017年5月31日(水)~7月17日(月・祝)
時間:10:00~18:00
※金土、および7月16日(日)は20:00まで
休館日:火曜(ただし7月11日(火)は開館)
入場料:一般1,300円、大学生1,000円、中学生以下無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_3/