日本の最高峰「富士山」。360度に裾野を広げる円錐形の山容は、世界的にも珍しいと言われています。今回の展示では、そんな富士山を、幕末明治の写真家たちが撮影した作品が楽しめます。撮影されているのは今と変わらず美しい富士山の姿と、それとは対象的に現代と全く違う人々の暮らしの組み合わせ。まるで約130年前にタイムスリップしたような感覚が味わえます。幕末明治の写真家たちが追い求めた"この世の桃源郷"富士山の世界をとくとご覧ください。
日本に写真術がもたらされたのは 1848(嘉永元)年。開国後、富士山を目にした外国人は、この美しい山を日本の観光名所ととらえるようになりました。訪日外国人にとってお土産物の定番だった写真アルバム「横浜写真」の被写体としても、富士山は人気を集めるようになります。
当時を代表する写真家・日下部金兵衛は、富士山とその周辺で暮らす人々の様子も作品に遺しています。中央に聳える富士山の麓に広がるのは今泉村。並んだ家屋やそこに暮らす人々の様子からは、現代とは大きく異なる生活風景が伺えます。
この展示会の魅力は、歴史的価値だけではありません。日下部の作品は、その高い「手彩色」の技術でも私たちを驚かせてくれます。モノクロ写真に1枚1枚手作業で色をつけていたこの時代、その彩色技術の高さは海外でも評判となっていました。とくに「田子の浦からの富士山」では湖面の光の移ろいと、湖面に反射する逆さ富士を捉えた構図の素晴らしさはもちろん、その繊細で緻密な彩色技法が存分に楽しめる作品です。
世界的にも類い稀な優美さを誇る富士山は、日本に滞在した外国人写真家たちをも魅了していきました。1863年に来日したフェリーチェ・ベアトの作品には、刀を差した侍が富士山の麓の村に立つ姿も写っており、当時の日本の様子を遺す貴重な資料でもあります。
来日した外国人写真家たちは、日本の写真家たちに多大なる影響を与えましたが、一方で日本の浮世絵に強く影響を受けたとも言われます。イギリス人写真家ハーバート・ポンディングもその一人で、手前の松の合間から遠方の富士山が覗く遠近法など、浮世絵独特の表現方法が作品のなかに見られます。
ハーバートは富士山麓を歩いた時の印象を「それは今まで日本の方々で見た森の中でも一番美しい森であった。おとぎの国を出たと思ったら、今度は桃源郷(アルカディア)へ入ったのだ」と表現し、感動を伝えています。世界中を旅してきた彼らにとっても、富士山は美しく、また麓に広がる自然豊かな風景と相まって夢の国のように映ったのかもしれません。
本展の監修を担当した打林俊氏のギャラリートークが6月10日(土) 14:00〜、16:00〜に開催されます。 さらにFUJIFILM SQUARE内の「写真歴史博物館」では毎日平日、土日祝含む)15:30〜16:00の約30分、富士フイルムのOBによる写真の歴史と企画展についての解説がありますので、ぜひお立ち寄りください。
編集部 中野
information
FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館企画写真展
会場:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)写真歴史博物館
会期:4月13日(木)〜6月30日(金)
時間:10:00〜19:00
住所:東京都港区赤坂9丁目7番地3号
休館日:無休(年末年始除く)
入場料:無料 公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します): http://fujifilmsquare.jp/