ひと続きの紙に描かれた絵や文字を読み進める「絵巻」。平安時代以来、日本で興隆したこの美術作品は、当時、熱狂的な愛好者を生み出しました。本展は、彼らを"絵巻マニア"として、その愛した作品史料とともに紹介しています。展覧会のキャッチコピーは「うい、らぶ、えまき」。かつて多くの日本人が夢中になった絵巻の魅力があふれる展示の様子をどうぞ。
絵巻は、机などの上で、左手で開いては右手で巻き込んで読み進めるもの。その実際に読む感覚に近づけるよう、展示台が傾斜し、手に取りたくなる高さに展示されていることも本展の特徴のひとつです。今回のために集められた絵巻の数は70点近く、重要文化財はもちろん国宝も展示されています。
また、作品には場面ごとにわかりやすい解説も添えられています。移動しながら読み進めていくと、あっという間に物語世界に引き込まれることに。今回の展覧会は、絵巻を「鑑賞する」というよりも「楽しむ」ための工夫が随所に凝らされているんです。
展示は6組の"絵巻マニア"ごとに構成されています。まず序章に登場するのは、平安末期の天皇・後白河院。宮廷の儀式などを描く「年中行事絵巻」や四大絵巻のひとつ「伴大納言絵巻」など多数の絵巻をはじめ、典籍や楽器などさまざまなコレクションを蓮華王院宝蔵に収めた人物だそう。
そのうちのひとつが、重要文化財「病草紙」。かつて蓮華王院宝蔵収められていた「六道絵」のひとつといわれています。六道とは仏教における死後の世界で、描かれているのは「人間道」の苦しみである病の様子。女性が不眠症に悩まされている場面です。辛そうです。
次のマニアは、鎌倉時代の天皇・花園院。蓮華王院宝蔵に収められた絵巻に大興奮、「予、幼年の時より絵を好むものなり」というほどの絵巻好き。その絵巻愛が綴られた自筆の日記も展示されていました。
花園院の時代は、大和絵技法を完成させたとされる絵師・高階隆兼が活躍。本人の制作関与が推定されている重要文化財「石山寺縁起絵巻」には、石山寺の創建と本尊である観世音菩薩の功徳の数々が生き生きと描かれています。
さらに時代が下って、後崇光院・後花園院父子は室町時代を代表する絵巻マニア。現在は国宝に指定されている「玄奘三蔵絵」を息子・後花園院が借り、父・後崇光院に又貸しするなど、親子そろって絵巻好きだったそうです。「玄奘三蔵絵」は西遊記で知られる玄奘の一生を描いた作品。
こちらは、わざとお腹を冷やすなどしておならを貯め、扇めがけて放屁するという、現代のギャグ漫画も真っ青の面白絵巻。なんとこれ、後崇光院自ら写したもの。きっと何度も読んでは爆笑していたんでしょうね......。
そのほか、読むだけでなく多くの絵巻新作にも関与した三条西実隆、その三条西実隆や後崇光院・後花園院父子とも関わった足利歴代将軍、江戸時代に古い絵巻を中心に調査・研究を行った老中・松平定信など、各時代を彩ったマニアが続々登場。
そして展示の最後には、キャッチコピー「うい、らぶ、えまき。」と対応したこんな問いかけが。ここまでじっくり絵巻を"読んで"感じたのは、現代のマンガに通じるものがあるということ。絵と文章が組み合わされた紙面を、視線を滑らせて読んでいく形式は馴染みやすく、マニアたちの気持ちがちょっとだけ理解できた気がしました。
展示されている絵巻はどれも読み応え十分、期間中は展示替えや、同じ絵巻の場面替えも行われます。時間をたっぷりとって細部までじっくり眺めれば、あなたも絵巻マニアに仲間入りできる......かもしれませんよ。
編集部 飯塚
information
「六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝」
会場:サントリー美術館
会期:3月29日(水)~5月14日(日)
休館:5月15日(月)
時間:10:00~18:00
※金土、5月2日(火)~4日(木・祝)は20:00まで
休館日:火曜(ただし5月2日(火)は開館)
入場料:一般1,300円、大学生1,000円、中学生以下無料
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_2/