19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランスとベルギーを中心にヨーロッパに広まった芸術様式、アール・ヌーヴォー。その巨匠と言われる、アルフォンス・ミュシャの作品を集めた大規模な展覧会「ミュシャ展」が、国立新美術館で開催されています。全20点からなる壁画級の超大作「スラヴ叙事詩」が公開されるということもあり、プレス内覧会にも多くの報道陣が詰めかけていました。その模様を、展覧会の内容とともに紹介します。
オーストリア領モラヴィア(現チェコ共和国東部)に生まれたミュシャは、移住したパリでさまざまな宣伝ポスターや装飾パネルを手がけ、グラフィックデザイナーとして活躍しました。そのかたわら、自分のルーツであるスラヴ民族を題材にした数々の絵画を制作。50歳になったミュシャは故郷に戻り、16年の歳月をかけて最高傑作となる「スラヴ叙事詩」を完成させました。
展示室に足を踏み入れると同時に、目の前に迫る「原故郷のスラヴ民族」によりミュシャの世界に一気に引き込まれます。6.1メートル×8.1メートルのキャンバスに浮かぶのは、両手を広げて平和を請う多神教の祭司、平和を象徴する緑葉の冠をつけた少女、剣を携える兵士。その背後に、村を焼かれて逃げ延びた2人のスラヴ人の姿と、略奪者の群れが描かれています。
紀元3〜6世紀、迫害を受け、襲撃にさらされていた温厚なスラヴ民族の闘いと、平和な未来への願いが表現された、「スラヴ叙事詩」の中でも特に傑作といわれる作品です。
9世紀にモラヴィアの要塞だったヴェレフラット城の門前で、特使が経典の大勅書を王に向かって読み上げる場面を描いた「スラヴ式典礼の導入」。これも6.1メートル×8.1メートルある巨大な作品。スラヴ人の団結を象徴する輪を掲げた、まっすぐ前を見据える青年の表情が深く印象に残ります。
全20点からなる「スラヴ叙事詩」が一堂に会するのは、チェコ国外では本展が史上初とのこと。広大な展示空間に大スケールの作品がずらりと並ぶ様子は、観る者を圧倒します。遠くから眺めると放光しているかのように美しく、近寄ると、細部にいたるまで描き切った写実的な表現に目を奪われます。
展示室内の一部には撮影可能エリアが設けられており、ここでは手持ちのカメラで写真撮影することが可能。ただし、作品のスケールが大きすぎるので、上手にフレームに収めるのはなかなか難しいかも......。
「スラヴ叙事詩」以外にも、ミュシャが残した作品の数々が展示されています。リトグラフの技法で描かれた「四つの花」は、ミュシャが37歳のときに制作したもの。4点組の装飾パネルとして出版され、人気を博しました。
フランスの女優、サラ・ベルナールがミュシャにデザインを依頼し、実際に彼女が舞台で着用したゴールドやオパール、ダイヤモンドを施したジュエリーも展示されていました。
1910年代に建設された、アール・ヌーヴォー建築を代表するプラハ市民会館。ミュシャは依頼を受け、「市長の間」の天井画、壁画、ステンドグラスやカーテンのデザインを手がけました。会場では、その天井画と壁画の下絵を目にすることができます。
ミュシャがデザインした、当時建国したばかりのチェコスロヴァキア共和国の紙幣や切手も出展されていました。国の発展に貢献しようと、これらの公共事業をミュシャは無償で引き受けたそうです。それにしても美しすぎる紙幣。当時のチェコスロヴァキア共和国の人々も、きっと誇りに思ったのではないのでしょうか。
ミュージアムショップでは図録をはじめ、ミュシャの絵画やイラストレーションをモチーフにしたグッズが販売されているので、こちらも見逃せません。また、TwitterやInstagramの公式アカウントでは、巨大な「スラヴ叙事詩」の20作品が遠くチェコから東京の会場までどのように輸送されたのかなど、その舞台裏がアップされているのでこちらも要注目。
日本でも人気の高いミュシャの作品が集結する貴重な展覧会。混雑が予想されるので、午前中や夜間開館時など比較的来場者の少ない時間がおすすめです。ぜひミュシャの世界に浸りに訪れてみてください。
編集部 五十嵐
information
「国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業ミュシャ展」
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:3月8日(水)~6月5日(月)
休館:毎週火曜日 ※5月2日(火)は開館
時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
※4月29日(土)~5月7日(日)は20:00まで開館
入場料:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
http://www.mucha2017.jp/