森美術館で開催中の「ディン・Q・レ展」は、いま、世界で注目を浴びているアーティストの、アジアで初となる大規模個展。ベトナムに生まれ、アメリカで写真とメディアアートを学び、ベトナムの歴史や社会を反映した斬新な現代アートを次々に発表しているディン・Q・レ。その多彩な作品をご紹介します。
ディン・Q・レが注目されたきっかけは、こちらの「フォト・ウィービング」シリーズ。写真は「消えない記憶#10」(2011年)。複数の写真を裁断し、タペストリー状に編んで再構成した作品で、ヘリコプターの写真の表面に、兵士の姿が浮き出ているように見えます。近くで見ると、写真が丁寧に編み込まれているのがわかって驚きでした。
こちらも注目を浴びた作品、「農民とヘリコプター」(2006年)。ハリウッド映画や記録映像を交え、ヘリコプターを自作したベトナム人男性の姿を軸に、ヘリに対するベトナムの人々の複雑な思いを映像で表現。実際に手づくりした実寸大のヘリコプターと映像で構成されたインスタレーション作品です。
こちらが、実際に手づくりされたというヘリコプター。解説文によると、ヘリは「ベトナム戦争を象徴するアイコン」。今年はベトナム戦争終結から40年という節目の年、この展覧会で「戦争」は大きなテーマのひとつになっていました。
こちらは「抹消」(2011年)というタイトルの、難民をテーマにしたインスタレーション。参加者は裏返しに敷き詰められている古い肖像写真を1枚選び、それを受け取ったスタッフがスキャンして、ウェブサイトにアーカイブするという参加型の作品です。
古い写真そのものが興味深く、大量の写真から1枚を選ぶのはなかなか楽しいもの。選んだ写真は奥のデスクに常駐するスタッフの方へ。この日は、木村桜アリスさんがボランティアとしてアップロード作業を行っていました。
展示されている作品は本当に多彩で、国旗と自転車を組み合わせた作品(「愛国心のインフラⅠ」(2009年))や......。
積み重ねられたアンティーク家具に埋め込まれたスピーカーからラップミュージックが流れる作品(「バリケード」(2014年))もあり......。
映像作品とともに展示されていた、従軍画家が描いた素朴なドローイングも(「光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ」(2012年))。
今回の展覧会は、戦争や難民など、テーマ自体はとてもシリアス。でも、決して作品の印象が重いわけではなく、どこかユーモアさえ感じられる作品もあり、シンプルにアートを楽しむことができました。
そもそも「ディン・Q・レ展:明日への記憶」という展覧会のタイトル自体が興味をそそりますが、旬のアーティストに興味がある方はもちろん、参加型アートが好きな方も、社会問題に関心が強い方も、さまざまな視点から楽しめそう。多くの方に鑑賞してほしい展覧会です。
編集部 飯塚
information
「ディン・Q・レ展:明日への記憶」
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
会期:7月25日(土)~10月12日(月・祝)10:00~22:00(火のみ17:00まで)
※9月22日(火・祝)は22:00まで、会期中無休
入場料:一般1,800円、学生(高校・大学生)1,200円、子供(4歳-中学生)600円、シニア(65歳以上)1,500円
http://www.mori.art.museum/jp/index.html